2012年6月20日水曜日

「マグマ」 真山仁 2006 ★★★★


「5年以内を目処に日本の原子力発電所を閉鎖して欲しい」

とても2006年に刊行された小説とは思えない言葉で始まる、再生エネルギーを柱にした国際エネルギー利権の裏側を描いた内容。恐らく同様の議論が2012年の福島での原子力事故の後にも同様に行われ、それでも魑魅魍魎たちが暗躍して、結局は小説のように前に動くこともなく既得権益所得者が納得する形になっていくのだろうと想像する。

「原発無しでも夏を乗り越えられる」

これも最近テレビで聞く言葉であるが、こういう台詞を読めば読むほど、著者の先見性と取材力に驚かされる。

ゴールドバーグ・キャピタルという投資会社の美人社員・野上妙子。彼女が不可解な上層部の指示により、九州・大分でほそぼそと展開する地熱開発の会社に送られ、その再生の責任者として着任する。

地熱発電所は日本では九州3、東北1の比率で展開されており、地熱の水蒸気によってタービンを回し電気を得るという、いたって単純な仕組みであり、それは地中1000メートル下がると3度温度が上がり、2500メートルまで達せれば75度にもなるということで、火山帯に位置する日本には非常に適した自然エネルギーである。

資源は無い。原子力は今回の事故で未来は暗い。日本全国どこでも温泉があり、その下には無限ともいえるような地熱発電の可能性が埋まっている。と条件が揃っていれば、どう考えても国を挙げて開発に力を入れて国策にしていかないといけないかと思うのだが、そうは簡単ではないらしい。

熱水溜りがあるのは国立公園か、昔ながらの温泉街近くということで、発電所の調査から建設までにも手間がかかるのもあるが、なんといってもその発電単価というコストパフォーマンスの悪さ。これは後発の技術であることと、神の炎と呼ばれる原子力に比べられてしまうのが可愛そうだが、一番安い原発が5,9円なのに対して、地熱は16円。資本主義社会で成立するためには、発電におけるビジネス効率も度外視できないということか。

「僕は技術者なんだと思います。論文を書くより、苦心惨憺して創り上げたものを実用化させたい。個人よりチームで目標を成し遂げたい。それが僕の喜びなんです。」

恐らく日本の発電の現場にいる人間の多くはこの言葉に代表されるように、真面目で優秀で、目の前のミッションに対して一生懸命向き合っているのだろう。問題は大局的な視点を持ち、この国の未来を見据えて判断を下す人間がいるかどうか。

「魚は食いたい、足は濡らしたくないの猫そっくり、「やってのけるぞ」の口の下から「やっぱりダメだ」の腰くだけ、そうして一生をダラダラ過ごすの?」とマクベスのセリフの引用で、困難へ向き合う主人公。

兎にも角にもマグマの国の日本人。国を捨てることが出来ないならば、それといかに共存していくのかを考えるのがこの地に生きる人の知恵。今回の事故を踏まえて、足元に埋もれている真っ赤に煮えたぎる無限の可能性を秘めたエネルギーに、今後の数年日本中の注目が集まることを期待せずにいられない。

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目次
プロローグ
第1章 逆境
第2章 大地の息吹
第3章 湖面の月
第4章 乱反射
第5章 突風
第6章 陥穽(かんせい)
第7章 乾坤一擲
第8章 逆襲
エピローグ
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