2010年の最後に見に行った建築も池原義郎建築だったが、2011年の師走もやっぱり池原建築を見に行く。
2011年に見た建築の中で間違いなくベストの一つ。
この規模の建築だからこそできる精緻さとこだわりに包まれる緊張感と落ち着きのある空間。建築が塊ではなく、要素の組み合わせでできていることを教えてくれて、その要素の接合点をどう処理するかが、ゾッとするような緊張感とそして建築家の視線と手の痕跡を残す、それをモノとして見せてくれる。
建物自体としては、決してメジャーな美術館では無い。九谷焼の陶芸家で、文化勲章の受賞者でもある浅蔵五十吉氏の作品を展示する為の美術館。浅蔵氏と同じく日本芸術院会員でもある、池原氏に設計が依頼された。
初めに言っておくが、建築はもちろん素晴らしいが、展示されている九谷焼の作品も素晴らしい。勉強不足で久谷焼きをじっくり見ることがあまりなかったのだが、同行二人とともに「ほぉー」とその色の美しさに目を奪われ、すっかり時間を忘れることになるだろう。
何が良いのかというと、その規模が適切。展示を見るにも、建築を見るにも、空間を体験するにも、細部を観察するにも、まさに適切という大きさと内容と密度。同じ規模の他のペラペラした建物を作っている建築家の作品に比べて、図面上に引かれた考えられた線の多さを想像する。そしてゾッとする。
ちなみに各ディテールについてはこちらのサイトを参照されるべし
見上げて視界に入ってくる飛び出した重いはずのコンクリートの壁面とのファースト・コンタクト。細長い敷地をさらに引き延ばすべく挿入されるアプローチの壁面だが、それを折り返すことでコンクリートの量塊姓をかもしだす。そしてそれを可能にするディテールの裏付け。
杉板型枠による表情のあるコンクリートの壁をくぐり、あたかも聖なる場としてのアプローチ空間には、深度0と呼んでよい静寂を感じさせる水盤が待ち受ける。その上には今度は内部を隠し込むかのように張りだすコンクリートの壁が水盤の上に浮かび、水との際を様々な素材で縁取る足元のディテールを視線で追っていくと、いつの間にか室内から3角錐として飛び出し、他の要素との縁を切られたキャノピーへと視線は持ち上げられる。これぞ秀逸。
キャンティレバーの使い方。それは緊張感を空間に持ち込む為。あるべき大地との接地を剥ぎ取られ、虚空に漂うその所在なさは、不安定ではなく、0度の緊張と呼ぶべきか。特にコンクリートの壁の扱い、キャンティの在り方、折り返し方などは酒田市美術館(1997)にも繰り返し使用されることとなる。
とにかく目を向ける先には、その場でしか成り立たない、決してコピー・ペーストではないディテールが待ち受け、その一つ一つがなんともカッコいいプロポーションを保っている。その一部だけでも完結することができそうなものばかりに囲まれた隅々まで気を配られていることがよく伝わる。
内部に入ると、少しサンクンしたホールから先ほどの水盤が見返され、その上に張りだしたコンクリートのキャンティ―部分は西日を遮るとともに、風景を切りとる役目を担わされていることを理解する。
見せる為のディテールではなく、空間の質を高める為に魅せる為のディテール。日本を離れる前に酒田市美術館まで足を運ばないとと心に決める。
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中部建築賞受賞
建築業協会賞受賞
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