午前5:30。
いつもより一時間ほど早めにセットされたアラームで目が覚めた脳は、いつもと違うパターンに一瞬何がどうなっているのか、ここがどこなのか分からなくなるようで、今日は朝一の便でハルビンに出張だと理解するまでに数秒かかることとなる。
進めているオペラハウスの仕事で、空調やら音響やらと問題が山積している細かい部分を、それぞれの担当者を集めて現地にて打ち合わせをするというので、担当の中国人マネージャーと二人でハルビンに向かう。
妻を起こさないようにと家を抜け出し、秋の冷え込みを肌に感じるようになってきた早朝の市内を抜け到着する空港で、一緒に北京から向かう内装会社の担当者と、施工図を担当する日本のスーパーゼネコンに相当するBIADの担当者と合流し、2時間のフライトで少しでも睡眠を確保しながら早くも冬を感じる北の街・ハルビン到着。
先日大きなニュースとして報道されていた崩落した橋の横を通り、クライアントのオフィスで各施工会社の担当者や音響の担当者なども合流して打ち合わせの開始。
オーディトリアム上部のキャットウォークの構造の状況と、それが現状の意匠と問題が無いかどうか。そして照明コンサルから十分なスペースと効果的な角度が確保できているかの確認など、それぞれの担当者がどんどん意見を出し合って誰が何をいつまでにするかを決めていく。
誰も外国人がいるからといって会話のスピードを緩めたり、わざわざ英語で言ってくれる訳も無いので、必死に耳を傾けながらポイントをつかみつつ意見を発していく。
それが終わると、今度はオペラハウスとして致命的な音響の問題に関して、新たに分かってきた問題点をどう解決するかを議論する。問題を見つけるのと、問題を解決する。その二つの相反する能力が建築家に必要な能力の中で大きな位置を占めるのだと改めて感じながら、また必死に耳を働かせる。
そんなこんなであっという間に昼になり、地方政府であるクライアントの事務所だけに、上の階の食堂で給食の様にみんなで一緒に食事を取り、その後は各座席からの視界の問題など、実際に作りながら見えてきた問題を解決する為に車で現場に向かう。
馴染みになっているクライアントの主任と一緒に車に乗り、建築物に辿り着くまでの敷地自体に渡る橋の現場にまずは到着し、一部完成したモックアップを見ながら具体的な寸法の調整を議論し、数日中に問題を解決する新しい案を送ることを約束する。
コンクリートの構造体に対して、がっちりと殻を被せるような鉄骨造の構造体が絡み合い、徐々に新たなる地形が生まれるように建築の姿が見え始めている現場で、それぞれの空間で見えてきた問題を話し合うのだが、内部を歩く間にどこからともなく、
「パチパチ」
と、天井を雨が叩くような音が聞こえてくる。
暗くなり始めた空の為に、夕立が襲ってきたのか?と空を見えげるが、雨の様子は見られない。よくよく見てみると、巨大な鉄骨増の接合部に張り付き、梁と接合部を溶接で繋ぐ作業員の手元で光る溶接の火花とそこから弾け、下に落ちていく小さな火花を見つける。そんな風景があちらこちらで見かけられ、それぞれに「バチバチ」、「パチパチ」なんてやっているので、全体としてはステレオで雨が降ってきているかのような音になる。
そんなハガネの雨音を聞きながら、今は内部も外部も無いこの建築化以前の構築物が、内部を持ち、建築となった時に、自分がどんな想いを感じるのか、今から楽しみだと心を弾ませる。
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