2016年11月10日木曜日

ポンピドゥー・センター(Pompidou Centre, フランス国立近代美術館) レンゾ・ピアノ リチャード・ロジャース 1977 ★★★★



パリの南から中心地の4区に戻り、レ・アールの駅から地上に出ると目の前に見えてくるのは青い工場。フランスの3大美術館に数えられ、古典美術はルーヴル美術館、フォーヴィズム以降の20世紀美術はオルセー美術館、そしてそれ以後の現代美術はと言われるのがこのポンピドゥー・センター(Pompidou Centre, フランス国立近代美術館)。

ルーブルが古い宮殿を、オルセーが古い駅舎を再利用して作られた美術館だったのに対して、このポンピドゥー・センターは現代美術の殿堂として相応しい建築にとコンペが開催され、世界中から多くの応募があるなか、イタリア人であるレンゾ・ピアノとイギリス人であるリチャード・ロジャースのチームによる案が一等を獲得し、1977年に開館した。

現代社会における展覧会とそのための空間の在り方を深く考察し、決まった大きさの部屋にある決められた壁にかける絵を変えるだけが展覧会のあり方ではなく、展示する作品の意味や大きさ、壁や訪れる人の動線のあり方なども、展示作品ごとにその作品の意図に一番あったものにしていく必要があるということで、構造の柱や壁、設備のダクトやシャフトなどで空間の可変度が比較的決まってしまう従来の建築の在り方に対して根本的にチャレンジし、内部の展示空間がそれらの構造や設備の制限から解放され、最大限の可変度、フレキシビリティを得られるように、建築に必要な構造や設備、動線などをできるだけ展示空間の外に出してしまおうという大胆な発想の転換。

その為に従来の建物であれば、壁や天井の裏、訪れる人からは目に見えない場所に隠されている構造や設備の要素が、すべて外に出され、その意図を明確にするためにそれの要素を隠すことなく剥き出しとして、今までの建築とはまったく違った表情を都市に見せている。文化施設などでは通常それらのあまり見て美しくない要素はできるだけ壁などで隠すなどの操作をされていたのに対して、工場などは不特定多数の人が訪れる場所ではなく、設備などの要素を隠し、できるだけ美しい空間にするというのが建物本来の求めるものでもないために、ほとんどがそれらの設備、構造の要素を剥き出しのままにされる。

それらの建築の機能によるある種の祖形を我々は育っていく中でなんとなく理解するために、このポンピドゥー・センターを見た際に、「青い工場」とか「カラフルな工場」と認識してしまい、「これが美術館なの?」というリアクションに繋がるわけである。

今から20年近く前、建築を学ぶ学生時代に建築史の歴史の授業では、一番最後の方に載っているのがこの建物であったのを良く思い出す。それは当時イギリスを中心としてムーブメントとなりつつあった、ハイテク建築の象徴的建物であり、その為に建築の歴史というアカデミックな括りにすでに囲われた建物であり、かつ今という時間からもっとも近い建築物でもあったわけである。実際に見てみたく、バイトをしてパリまでやってきた時の感動を今でも良く思い出すものである。

前面広場を大胆にスロープとしてエントランスを地下1階に設けることで、レ・アールの駅から建物に向かう人々の流れを正面で受けるとともに、人々が漂う都市広場としての空間の背景として自らを組み込むことになる。東側の道路から敷地北側に設けられた搬送口に対して、公共のエントランスは西側へという動線計画も明確。

エントランスを地下に設けたことで、入り口空間は背の高いゆったりしたものになり、人目でどこにチケットオフィスがあって、クロークがあって、トイレ、カフェ、常設展示と企画展示への入り口が一目で分かることができる明確な平面計画。

チケットを購入しコートを預け、常設展示入り口でチケットチェックを受けて、エスカレーターで地上階へと上がってから建物の外に出るようにして正面ファサードに取り付けられたチューブ状のエスカレーターを利用して一気に建物最上階の6階へとアクセスする。というのは、この建物は美術館だけではなく、図書館など様々な機能が同居しており、4、5階が常設展示、6階が企画展示とレストラン、そして3階は公共図書館などが入っており、美術館を訪れた人を下層部の公共空間から一気に最上部の6階へと持ち上げて、そこから徐々に降りてくるタイプの動線は非常に効率的である。

しかしそれを階段やエレベーターでやると、一度に利用できる人の数が限られたりということで、エレベーターというかなりアクロバティックな縦方向の動線を採用するにあたり、通常の建物内部で何度も折り返しでつかうものであれば成立しなかったであろうが、一方向、しかもほぼ外部に設置され、高さを上がることにより徐々に目の前にパリのパノラマが広がるという、背の高い建物があまりないパリという都市だからこそ、そして市の中心部に巨大なヴォイドとして取り残されていた駐車場跡地だったころこそできたこの動線空間。まさに現代のパリのパノラマ空間であり、最上部の廊下空間は展望室としての機能も兼ねており、南に張り出す場所ではエッフェル塔モンパルナスタワーが向き合う姿を見ることができる訳である。

企画展ではルネ・マグリットの展示が行われており、印象的なこうもり傘の絵などに多くの人が集まっている姿を見ながら、先ほどのエレベーターを利用して下階常設展示で、ヨーロッパ最大とも言われるその膨大なコレクションをお腹一杯になるまで堪能し、図書館を覗きながら今度はゆっくりとエレベーターを降りていくことにする。



パリ4区
























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