2015年2月21日土曜日

やなせたかし記念館アンパンマンミュージアム 古谷誠章 1996 ★★★★


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所在地  高知県香美市香北町美良布
設計   古谷誠章
竣工   1996
機能   美術館
規模   地下1階 地上4階 
敷地面積 4601.70 
建築面積 1155.29 
延床面積 2271..42 
構造   S造一部RC造 
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「アンパンマンミュージアム」と聞くと、アンパンマン好きの子供の集客を狙った日本全国に展開する「アンパンマンこどもミュージアム」かと思ってしまうが、仙台、横浜、名古屋、神戸、福岡にあるそれらとは一線を画し、ここ高知にあるのは正式名を「香美市立やなせたかし記念館 アンパンマンミュージアム」といい、父を亡くした後に、父の親戚を頼って父の故郷のあったこの地に移り住んだ、世界的アニメであるアンパンマンの作者・やなせたかしの功績を記念し、アンパンマンを題材とした美術館となっている。

子供たちはその成長の過程で必ずどこかで一度はこのアンパンマンにはまる様で、その絶大なる人気は時代を経ても衰えることを知らない。現在も年間15万人を越える来場者を数えると言うから、自治体としてはなんともありがたいことであろう。

敷地内には「詩とメルヘン絵本館」と呼ばれる施設もあり、こちらも同じ建築家による設計。そうなると事前調査では、前日の牧野富太郎記念館同様、いまいちよく把握できないままに現地に到着することになる。

設計をした建築家は古谷誠章(ふるやのぶあき)と八木佐千子による建築事務所スタジオナスカ。なんといっても建築業界で知られているのは、ネットの出現によって建築の存在が新しい地平に向かうのではと議論がされた90年代に、新しい形の公共施設として広く案を募集された「せんだいメディアテーク」のコンペにおいて、最終的に一等を勝ち取った伊東豊雄の案と最後まで争い、メディアが建築にどのような変容を与えるかを深く示唆する作品で世を賑わした建築家である。

早稲田大学に長く席を置きながら、教育に力を注ぎながらも定期的に良質の作品を発表し続け、非常にセンスを感じさせるディテールを使いこなす建築家である。下記にそのキャリアと作品を見てみると、

1994年 天草ビジターセンター・天草展望休憩所(39歳)
1995年 せんだいメディアテークコンペ案(優秀賞)(40歳)
1996年 香美市立やなせたかし記念館・アンパンマンミュージアム(41歳)
1998年 やなせたかし記念館・詩とメルヘン絵本館(43歳)
1998年 早稲田大学會津八一記念博物館改修(43歳)
2003年 神流町中里合同庁舎(48歳)
2005年 茅野市民館(50歳)
2009年 小布施町立図書館まちとしょテラソ(54歳)
2009年 高崎市立桜山小学校(54歳)
2011年 熊本市医師会館・看護専門学校(56歳)
2012年 LUPICIA滋賀水口工場(57歳)

さて、てっきり9時に開館だと思って到着するが、敷地内に二つの施設が建ち、その横にホテルが併設されており、なおかつ美術館が美術館らしくない純粋な箱型をしているので、いったいどこが目的地かと分かりにくい。

ホテル近くの駐車場に車を停めて、美術館のエントランスに向かうがまだスタッフの人が開館準備をすすめている。聞いてみるとなんと開館は9:30だという。しょうがないので、周囲を巡って時間を潰すことにし、外部階段に登ってテラスに出たりしながら、建物の内部と外部を繋ぐエレメントが後ほどどうやって内部空間の中で利いてくるのかを楽しみにしながら、鉄を使った特徴的なディテールが派手ではないが非常に気を利かせて設計されているのを見ながら、その設計意図が雨をどう流すのか、人をどう留めるのか、光をどう取り込むのかなどと推理しながら巡っていく。

道を挟んだ逆側に位置する「詩とメルヘン絵本館」にも足を運ぶが当然のようにこちらも9:30開館ということで、「もう少し待ってくださいねー」と言われ、後ろの里山に鎮座する神社へと足を向ける。

こんもりとした森の中にひっそりと佇む神社は、足元を流れる清流を越えて小さな境内に入る形になり、しかもその清流が右と左から来る二つの流れが上下にて交差すると言うなんとも珍しいディテールを持っており、そのお陰で二つのスピードで音を変えた水の響きあいを楽しみながら参拝することに。周辺に展開するアンパンミュージアム関連の施設を見ながらそろそろ開館時間を迎えるかと入口へと向かう。

外から見るとなんだかプロポーションの悪いボックスに見えたこの建物。しかし実際に内部に入り、展示を見ながら建物内部を歩いてみると、そこには驚くほど豊かで多様な空間が交錯していることが良く分かる。しかもなんらアクロバティック手法を用いる訳ではなく、必要最小限の操作にて内部に多様な視線の関係を作り出し、内部と外部の豊かな関係性を組み込み、素材やディテールの操作にて何を見せたいのか、どこに向かわせたいのか、どこに行かせたくないのかが非常に慎ましやかにデザインされている。

豊かな空間を作るのに、決して派手な見た目は必要なく、高い能力と経験を持った建築家が丁寧に全体と局部を行き来しながら設計することが、一番必要なことなんだと教えてくれるような建築である。

先ほど外部から見上げた大きく張り出した外部階段が、内部の展示室とどう関係してくるのかが理解でき、それを建築の重要な動線空間とするために、雨水の処理や建築に付随するドロドロとした機能的なものがデザインによってあまり前面に出てこないように処理されているのを見て、標準の納まりをしって、その上に自分のやりたいデザインの為に知恵と知識を総動員してデザインを変えていく。その能力ができるかどうかは、専門外の人にとってはほとんど目に見えない違いなのだろうが、空間としてはこれほど大きな違いを出すのだと改めて再認識する。

すべての細部に意識が巡らされ、建築家と担当したスタッフの想いが伝わってくるディテールを巡っていく。その一つ一つのディテールやデザインには、すべて「こうありたい」という願いが隠れていて、それを出発点まで戻って、どんな困難を経てこのデザインにたどり着いたかに想いを馳せる。

非常に品がよく、また思慮深い硬質な建築を見て、「設計をする」ということが結局は気持ちよく使われ、長く愛される建築になる第一条件であることを再認識して「詩とメルヘン絵本館」へと向かうことにする。












































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