今進めているプロジェクトの中でかなり重要なステージにあるのが、アモイで進めているあるアパレル会社の新社屋計画。
やっとSDの承認がおり、PDを進めながらも、ファサード、ランドスケープ、照明、構造、キッチン、インテリアなど沢山のコンサルタントがそれぞれの担当部分の設計を進めるのと歩調を合わせつつ、内部の公共的空間のインテリア・デザインも受け持つことになり、そのコンセプト・デザインのプレゼンにやってくる。
このアモイ。中国語では厦门と書いてシャーメン(Xiamen)という。では、このアモイという名はどこから来たのか?というとかつて、ご当地の方言での発音を英語表記にした時の表記から来ているということらしい。
アモイは福建省の港町で、アヘン戦争後、国際的に開港され、イギリスを代表とする帝国主義国の租界が築かれたこともあり、今でも海岸沿いには当時の西洋様式の建物を見かけることができる。海を渡ればすぐに台湾があり、金門県を通しての往来も多く、街にも多くの台湾料理屋を見かけることができる。ちなみに福建省の省都は福州市(Fuzhou)で、アモイよりもやや北東に位置する。
アモイには世界遺産に登録されている有名な土楼が存在するので、これはプロジェクトが竣工するまでになんとか一度は訪れてやろうと思っているが、アモイは空港が非常に市街地に近いところに位置しており、また北京からも飛行機で2時間40分ということもあり、朝一の便に乗れば昼前にはアモイに到着し、午後一からの打ち合わせに間に合うことができる。夕方に打ち合わせが終れば、最終の21時の飛行機に乗って、北京に23時過ぎに戻ってこれるので、ギリギリ日帰り出張が可能な境界線となる。
ランドスケープ・アーキテクトはシンガポールからやって来て、同じくコンセプト・デザインのプレゼンを行い、その後各フロアの機能の配置について説明をし、その後インテリアの説明に。
全体のコンセプトから、メイン・エントランスから中心部の縦方向の動線空間であるアトリウムから各フロアに分散された展示空間とオフィス空間。多機能空間と地下の食堂、アトリウムを見下ろす会議室と、最上階に広がるラウンジと
社長さんのオフィス空間。
中国語での挨拶の後、間違いが無いようにと英語で説明をし、同行する中国人スタッフがその都度、翻訳して説明を行う。その後各フロアのプログラム配置を説明し、決定権を持つ社長さんの意見を貰うことに。
そうすると、自分のオフィスに行って話そうということになり、スタッフとディベロッパーの担当者と一緒に、階下のオフィスの中を突っ切って、彼のオフィスに通されると、おもむろに何枚かの写真を持ち出し、「中心の空間にはこれが必要なんだ」と、より開放的な空間の写真を見せられる。
これをするためには、根本的な構造の変更をしなければいけないし、それを行うと行政に提出したSDの資料の再提出になり、大幅に竣工も遅れるし、この空間は現状案の空間のよさとは少し違う方向性にあるということをとうとうと伝えるが、「これは自分のオフィスで、スタッフが働いたり打ち合わせをしたりしているところを見える必要があるんだ。どんなに変更になろうとも、自分はかまわない。こういう空間を作ってくれ。」という言葉に、プロジェクトを預かって資産管理をするディベロッパーの担当者も、プロジェクト管理を行っているマネージメント会社の担当者も青ざめた顔でこちらを見てくる。
とにかく現場も一度止めて、一週間以内にどのような変更の可能性があるか検討させてもらって、それをもって再度クライアントに判断を委ねるという形で話がまとまり、皆で肩を落としながら上階の会議室に戻る。
インテリアの後に設備とLEEDについてのプレゼンを控えていたARUPのエンジニアも、この大きな変更によってプレゼンする意味すらなくなってしまい、苦笑いしながら「お疲れさん」と声をかけてくれる。とにかく、この変更は全体のプロジェクトに相当なインパクトを与えるが、最終決定者の要求だけに、何とか満足させる修正案をひねり出そうという変な一体感を持って、せっかく来たのだからと敷地の見学に向かうことにする。
夕暮れ迫る敷地に立って、ドイツ人のスタッフに「どうであれ、後二年後にはここに建つ建築を見れば、今日のような不条理もすっかり忘れているんだろうな。」などと言いながら、「こういう日は少しはアルコールの力を借りる必要があるから。」と北京から一緒に来てくれた設計院のシニアの方と一緒に空港でビールを飲みながら搭乗を待つことに。
このプロジェクトが無かったら訪れることも無かったであろう街でビールを飲みながらいると、パートナーからメッセージが届き、平行して進めている南京のプロジェクトの締切が2週間前倒しになり、来週の月曜日に上海でプレゼンになったから、今日は何時に北京に戻ってこれる?かと。
肩を落としながら、「大きな問題を抱えているときに、さらに大きな問題が振ってくると、最初の問題が相対的に小さく見えるからいい事だな。」なんていいながら、さらに一本冷えたビールを開ける。
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