2013年11月4日月曜日

インターンとフルタイム

建築家の仕事には本当に様々なものが含まれる。

日常的な「設計業務」も、一つ一つ内容をみていったら本当に多岐にわたることとなるが、設計事務所というある種の組織を率いていくとなると、必然的に経営や人事など組織を運営していく業務も同時に行わなければいけなくなる。

「上司にとって最も重要な仕事は部下を公正に評価すること」

そんなことを以前何かの本で読んだことがある。事務所のスタッフやインターンとして来ては離れていく何百という人間と接しているとその言葉の意味が徐々に分かってくることになる。

世界の様々な国からスタッフやインターンがやってくる国際性を持った建築事務所をやっていくと、常にオフィスには様々な文化的、または教育的バックグランドを持ったスタッフを抱えることになる。

その一人一人が、それぞれに何かしらの目的を持ってこの地にやってきて、この事務所を選び、自らが持っていた期待通りに何かを得よう、何かを学ぼうとして毎日を過ごしていく。

それと同時に日本ではまだまだ定着していない制度であるが、この国を始め多くの国では「新卒」という制度に囚われず、大学を卒業しても建築家として働き報酬を得るにはまだまだ経験と知識が足りないと思う人材が、興味を持っている建築事務所でインターンとして入って実務を実際の現場で見ながら学び、その中で経験を積みながら次はスタッフとしての職を探すということが良く見られる。

大学を卒業したから即スタッフ、つまりはフルタイムとして働かなければいけないとはそんなに思ってなく、それよりも自分が何を求め、今の自分がどの程度のレベルで、何が足りていないのか、それを良く考え今自分が行くべき場所を見つけているようである。

そんな訳で我々MAD Architectsにも何人ものインターンが世界中からやって来てくれており、その中には大学を卒業し終え、経験を積むためにこの街へとやってきてくれている人もいる。そんな彼らもインターンとして数ヶ月を過ごし、オフィスのプロジェクトの進め方を理解し、なおかつ配置されたプロジェクトの中で十分にその能力を発揮する子達もいる。

このような流動的な雇用関係の世界では、それこそ恋愛と同じく、お互いが何を考え、何を期待し、どうしたいのかを知ることが重要である。そんな中、何人かのインターンが、インターンを終えてフルタイムのスタッフとなって事務所に所属したいと申し出てくることがよくある。

オフィスのマネージャーと、普段から彼らが属するプロジェクトを率い、直接彼らに接している担当プロジェクト・アーキテクト、そして他のパートナーとアソシエイトと意見を交換し、彼らをどう評価するかを話し合う。

そんな中、フルタイムになることを望んでいる3人のインターンと面談をし、オフィスの意向を伝える機会を設けた。オフィスマネージャーと二人のアソシエイトと一緒になって、一人一人打ち合わせ室に呼び面談を行う。

まずはオフィスとして彼らがインターンとして過ごした数ヶ月を何を評価するかなどを伝える。そして事務所として外国人を雇い入れるということがどういうことか、オフィスがフルタイムのスタッフに期待し、求めることが何か、その責任がインターンと決定的に何が違うのか、オフィスとしてどのようなタイプのスタッフを求め、彼らがどのタイプだとオフィスが評価しているのかなどを伝えていく。

それと同時に、まだまだ若い彼らが自らの建築家としてのキャリアをどう考え、この先数年間をどのように過ごそうと思っているか、将来どこでどのように建築と携わっていこうと思っているのか、そしてこの事務所で何を期待しているのかなど相互理解を深めていく。

そうしながら、インターンとフルタイムの差を彼らに理解してもらいつつ、オフィスとして彼らをフルタイムとして迎えたいと伝えることになる。いきなり呼び出され、何人もの中年達の目の前に座らされ、あれやこれやと言い聞かされながら最後まで聞いた彼らは、それぞれがやはり誇らしげに嬉しそうな表情を見せてくれる。

外国人には英語で、中国人には英語と中国語で話し終え、横に座るアソシエイトとオフィス・マネージャーに何か付け加えることは無いか?と聞くが、それぞれに「がんばって」だとか、「おめでとう」と声をかけてあげている。

そんな姿を見ていると、遠い場所から建築家として時間を過ごしたいと思ってくれる若者がいる、そんな事務所になったんだと改めて思いながら、その期待に応える為にも彼らが望んだものをしっかりと手にして成長していけるような深みのある場所にしていかないとと気持ちを引き締めることになる。

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