2013年6月14日金曜日

「笑い犬」 西村健 2008 ★

なぜこの一冊が自らのアマゾンでのカートの中に入っていたのかいまいちよく理解できない。

恐らく、吉川英治文学新人賞を受賞した「地の底のヤマ」を購入しようとして、まだ単行本になっていないので作者の経歴を調べたら、日本冒険小説協会大賞や日本推理作家協会賞を受賞しているなかなかの作家らしいということで、その中でも評判の良いこの一冊を試しに購入してみようか・・・という流れだったに違いない。

取材の緻密さを誇るかのごとくな刑務所内での生活の描写につきる第一章。大手銀行の上層部の意向に従って行った土地の売買から、自殺者が出たことで罪に問われ、会社を守るためにと会社の顧問弁護士からも言いくるめられ結局は有罪の判決を受けて塀の向こうでの生活を始める元銀行支店長。

小さなころから何をやっても自信も無く、うまくいかなかった主人公。東大に落ちて入った早稲田大学。家族を見返そうとして内定を勝ち取った大手銀行は、父親の忌み嫌う貸し渋る銀行の一つであり、更に家族との亀裂は深まる。非行に走る娘に対して小さなころから自分よりも人間的な器は上だと認めてきた長男は何の問題も無く東大に合格するが、冤罪を信じてきた彼は、判決後も上告をせずに執行猶予を狙って刑を受ける父親に「負け犬め」という視線を投げかける。

手のひらを返すような銀行からの圧力によって、長年付き添った妻も「疲れました」と実家に戻り、嵌められれ、トカゲの尻尾切りにあった元エリートの転落人生と、それに伴う刑務所の中の悲喜こもごもな生活の様子をこと細かく描いて物語は進んでいく。

世間の批判が銀行自体に向けられるのを避けるために犠牲にされたというよりも、彼を社会的に抹殺すること事態が目的だと思われるような銀行の行動。そこから見えてくる、より大きな陰謀・・・。それに気がついた主人公が出所後銀行に対して開始する復習劇。

と、話は分かりやすいのだが、如何せん、突っ込みどころが満載で、細部まで詰められてない世界観が露呈してしまっている感はいなめない。タイトルでもある「笑い犬」。無意識の内に浮かべているはずの笑みのはずが、関係者に恐怖を与える一方、娘や記者とは普通の様にやり取りができている点など、主題に関わる部分で解決されない疑問が多すぎで、どうにものめり込むまで行かない一冊。

吉川英治文学新人賞を受賞した「地の底のヤマ」では、そんなことは無くて欲しいと次に期待する。

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