2013年4月8日月曜日

「ベクシル 2077日本鎖国」曽利文彦 2007 ★


何百年後ではなく、数十年後の近未来。

一見現在と変わりないが、よくよく見ると生活の様々なところに明らかに変化がでていて、それを可能にしているのが最先端のテクノロジー。

そんなのが一番説得力のある未来の描き方ではないかと思う。そしてその近未来の社会の姿は現在のテクノロジーから十分に予想がつくものであるはずである。

そんな訳で50年後ほどの未来の世界をモーションキャプチャーを使って描いた3DCGの作品。ジブリ作品に見られるように、あくまでも2次元を主体としたジャパニメーションの中ではやや異端の位置に属するであろう作品だが、ロボットの質感や動き方など実写にどれだけ近づけるかを見せながらも、芸に溺れずしっかりとアニメだからこそ描けるものをしっかりと描いているのは好印象。

バイオテクノロジーとロボット産業の分野で圧倒的な力を持つ国際企業「大和重鋼」。国際社会が規制を求めるが、国家すらも支配に置いたその企業は、国際連盟から脱退し、物理的にも情報面でも一切の国外と交渉を持たないハイテク鎖国を開始する。

それから10年。日本国内の様子がまったく分からない国際社会。不穏な動きをキャッチしたアメリカ軍特殊部隊SWORDは日本への極秘侵入を試みて、その一人であるベクシルが日本国内のレジスタンスと協力し「大和重鋼」に立ち向かうというシナリオ。

もちろん細かいつじつまの合わないところや、気になるところは沢山あるが、大きなプロットとしては十分に魅力的な流れであると思われる。漫画原作や小説の映画化ばかりの現代の日本の映画界で、これだけオリジナルなプロットをつくったというのは相当なことであるだろう。

恐らくハリウッドでこんな企画書が持ち上がったら、軍、IT、ロボット、政治、企業、傭兵、医療など様々な分野の専門家が集い、プロットの内容を細かく検証し、それぞれの分野の最先端の技術とこの先に予想される技術的革新を踏まえて現実味のある精緻なプロットへと昇華させていくのであろうが、さすがに今の日本とこの作品のおかれた立場ではそこまで理想的なバックアップは望めない。

兎にも角にも、少なくとも近未来の日本の姿を描いた作品であり、それは限られた分野にすべての力を集中させて、外部との交渉を一切絶ち、自ら信じる価値を高めることで国際的な存在力を維持していく。多様性の中から生まれるイノベーションよりも、隔離の中で発生する純粋培養の可能性。こうして書くと近隣の国の姿が思い起こされるが、想像力は未来を見るための道具であり、そうして始めて未来に向かって薦めることを改めて教えてくるような作品であろう。


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スタッフ
監督曽利文彦
脚本半田はるか

キャスト
黒木メイサ
谷原章介
松雪泰子
朴路美
大塚明夫
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