2013年3月30日土曜日

グローブ・トロッター

かつて妻の通っていた語学学校で、当時の妻と同じくらい初級の中国語を話すブラジル人のクラスメートから誘われて、夫婦揃ってブラジル料理を食べに行く機会があった。

彼女達の友人のこれまたブラジル人夫妻と合わせて6人で、なかなか肉肉しい料理を楽しんでいると、隣のテーブルに座っている家族連れと会話が始まり、そのノリの良さですっかり意気投合していくブラジル人たち。

その家族は父親がブラジル人で、母親がフランス人。息子は二人とも190センチを超える長身でモデルのような小顔の高校生。お父さんは貿易関係で、お母さんは大使館関係の仕事をしている関係で、世界中を渡り歩きながら生活をしているようで、双子とも英語、フランス語、ポルトガル語に中国語ととにかく流暢。ついでに日本の漫画が好きということで少々日本語も喋れるというのを披露してくれる。

日本のフランス大使館でも仕事をしていたらしく、仕事の関係で日本にも友人がいるということで、何度か日本にも足を運んだことがあると言い、嬉しそうに写真を見せてくれるでかい双子。そんな訳ですっかりブラジルの波にのまれたような一夜を過ごした昨年の夏。

すっかり時間が過ぎて、中華新年を目前にしたある日。家の近くのブラジル料理屋でランチをしていたら、その隣のテーブルについたのがそのブラジル人家族。お母さんはフランスに出張中ということで、「男だけのお出かけなんだ」と嬉しそうに話してくるお父さん。これは何かの縁だということで、今度は日本食のディナーに出かけないとね、といって別れることに。

そんなことがあって暫くすると、こちらもすっかりご無沙汰にしていたクラスメートのブラジル人夫妻に街中でバッタリ出くわす。エレベーターを待っていたら、そのエレベーターから出てきたのが彼らというパターン。

これは何かの縁だということで、彼らも誘って馴染みの日本料理屋を予約して、いったいどんな話題をふればいいのかと、やや心配しながら昼過ぎに街中を歩いていると、向かいから歩いてくるのは例の双子の息子達。ちょうど高校の試験が終わったところらしく、これまた背の高いクラスメートと楽しそうに歩いてきて、こちらに気がつき手を振ってくれる。ここで話し込んだら夜に話すことがなくなるぞ・・・と思いながら「では、夜に」と言い残してその場を離れる。

皆が場所を見つけられないといけないからできるだけ先に・・・と思って10分前には着いたお店だが、他のみんなは既に到着しており、ブラジル人の意外なパンクチュアリティーを実感し、小皿をつまんでの食事が始まる。

「自分達はグローブ・トロッターだから」と笑顔満面で言うお父さんは、カナダの大学への進学が決まった仲の良い二人の息子が手元から離れていくのがやや寂しそうだが、また夫婦二人で自由な生活をするよと笑い飛ばし、息子二人はどうにかとても日本文化に興味があるらしく、今度は日本語を習得したいと比較的時間のある妻と日本語・フランス語の相互学習の約束を取り交わし、お母さんはこの前東京に行ったときに、「ロスト・イン・トランスレーション」の影響で行ってみたパーク・ハイアットのバーの話に花を咲かせ、クラスメートの夫婦は最近妊娠が発覚したといって、そりゃめでたいと皆で一升瓶の日本酒をあける事にする。

日本史における琵琶湖の戦略的位置づけなど説明してあげると、非常に興味深そうな顔をしながら説明に耳を傾ける双子は、将来はフランス以外に住みたいから大学では商業を専攻するという。そのコースはディプロマの最終学年で世界中のどの国でも選んでいい交換留学制度があるといい、二人揃って日本に行きたいらしい。

こういう開放的な両親の元で、世界中を経験する育ち方をして、バックグラウンドも国籍も年齢も職業も、まったく異なる人たちに接しながら成長していくこの子達を見ていると、今の日本の教育環境で育つ子供達に比べたら、その考え方や生き方に対して大きな違いがでるのも最もだと思わずにいられない。

そんな訳ですっかり打ち解け、今度はその家族の家にてパーティーをして、本場のカイピリーニャを飲んでほしいと誘われて、「それはいい」とひょいひょいと誘いに乗っていく我々。

よく考えたら、たまたま隣のテーブルになったのが二回あっただけで、こうして家族ぐるみの付き合いになっていくというのも、またなんだか不思議だが、人生における出会いなんてそんなものだろうし、それもまた悪くは無いなと思いながら、次回のカイピリーニャに想いを馳せる。

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