作品集でなく、その思想となると、一人の建築家にとって一冊で充分だと思う。
文章自体が作品となる磯崎クラスになれば話は別だが、自分が何をやっているかすら微妙な時期に消費の波にのまれる必要はなく、じっくりと時間をかけて、真摯に自分に向き合ってきた建築家が、作品を作ってきた過程を整理し、ブレることなく暗闇の中で一つ一つ、言葉と、図面の上に散りばめられた手の痕跡を積み重ね、その想いが詰まった一冊に出会うのは至極の喜びである。
本屋の中でそんな一冊を見つけても、決して安くはない建築本だけに簡単に手を伸ばすことはできず、プロジェクトを終えていただいた報酬をもって、やっとそのページを開き、その著者が自分に向かって語ってくれる時間を過ごすことは何よりの贅沢である。
学校を出て希望にあふれて実務の世界に飛び込んでも、日々の業務に追われ、いつしか昔、心を震わせた本の中のあの建築家の言葉達から遠くなっていってしまう日常に溺れることなく、孤高の路を行き続けた人たちだけがたどり着いたその一冊は、自分たちへの叱咤でもあるということ。
一つのプロジェクトに区切りがついた時に、今の自分に何が必要かを真剣に考えて選んだ5冊の重さをしっかりと手に感じ、今度はどんな世界が広がるのかと想像力を逞しくしながら家路につく。
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