タイム・トラベル系の話だが、従来のものよりも一歩踏み込んだ設定。
現在の記憶を持ちながら、過去に戻れるとしたらどうするか?
そんな設定は掃いて捨てるほど作られてきたが、過去に戻る(ジャンプ)できるのは時間の中の一点のみで、それを逃せば二度と過去へは戻れない。という条件。
そして、過去に着くのは常に一定の時間ということ。
更に、戻った過去でも、また決まった時間に来ればまた過去に向かってジャンプできるということ。
これだけ詳しく設定が付け加えられるのは、過去に戻った人間が一体どの様に時間を過ごすのか?に対して作者が膨大なシミュレーションを頭の中で行って、実際の一人の人間としてその世界を体験し、時間を過ごし、何度も何度も葛藤しながらジャンプを繰り返し、果てのない自らの欲望に向き合ったからこその賜物だと思わずにいられない。
ミステリー好きならば読んできたであろう過去の金字塔作品。使い古された「タイム・トレベル」という題材にそれでも敢えて挑戦しようと思ったのは、自分にその準備、使い古された世界に新たなる息吹を与えられるという確認が心の中で生れたからに違いない。
違った時間を過ごした人間にとって、現実をリセットし、過去へ戻れるというのはまったく違った意味を持つ。受験に失敗した高校生。就職活動中の大学生。どこにでも居そうなOL。そしてタイム・トラベルを繰り返し、クローズド・サークルを知り尽くし、退屈しないようにと毎回違ったメンバーを募集する中心人物。
多様な視点を取り込み横の広がりを与え、入れ子の入れ子となるサークルから螺旋へと発展するクローズド・サークルを描き、物語に立体的な奥行きを与える。
そんな話を読んだ後は、過去へと戻れる時空の裂け目が自らの目の前に現れたとしても、ジャンプをすることなくそれを見送ることが出来るだけの、現在に対する満足度をどれだけ高めておけるのか?それに向き合うしかないんだと痛感する一作。
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