2016年3月4日金曜日

「隠された貧困 生活保護で救われる人たち」 大山典宏 2014 ★★

2008年に起きたリーマンショック。その影響によって顕在化してきた社会の中の格差。その結果年越し派遣村など様々な形で日常を過ごすことが困難な経済状況にいる人たちが世の中に認知されるようになると、大きな格差という括りの中で、「非正規労働者」、「子供の格差」、「女性の格差」、「漂流老人」などと毎年の様に新たなるカテゴリーが登場して世の不安を煽るかのようである。

その流れの中でこの数年特にスポットが当てられているのはシングルマザーなどの女性の貧困と、高齢者の貧困。結局それらは現在の日本が構造的に抱える問題が断片的に光を当てられ、世間に分かりやすいように、「決して人事ではなくあなたもそうなる可能性のある、すぐ横にある問題ですよ」と報じられているだけに過ぎず、それでも決して報道で取り上げられることのない貧困の在り方は別にある。

そんな普段の生活からは見えにくい貧困の在り方に真摯に向き合い光を当てようとするこの一冊。児童養護施設出身者、高齢犯罪者、薬物依存者、外国人貧困者、ホームレス・高齢孤立者、生活保護受給者と、様々な場所で槍玉に挙げられがちな人々をその背景から現状まで詳しく描き、その根本にある原因を描き出そうとする。

まるで受けやすいネーミングをつけて「○○格差」や「○○の貧困」と世間の注目を浴びてそれにより何かを得ようとするある一定の報道のされ方よりは、よっぽど好感の持てる内容だし、問題の在り処もよく分かる内容である。全体的に客観的に物事を伝えようとするために、インタビューを大量に使用しているのが読み物としてやや気になるが、それは真摯な著者の態度の現れであるのだと思われる。

以下本文より。

--------------------------------- 
メディアで伝えるのは、多くの人が共感する、わかりやすい生活保護者です。

第一章 児童養護施設出身者 
/児童養護施設の現状
約4万7千人

/自立援助ホームとは
義務教育を終えた15歳から20歳までの子供たちが働きながら自立に向けて生活をする場所
基本的には生活のすべてを自分の手で賄わなければなりません

第二章 高齢犯罪者 
/高齢犯罪者大国・日本
諸外国が3%前後 日本だけが10%を超えている

/孤立と貧困が犯罪を生む
犯罪を繰返すことで、家族や仕事、住いを失い、孤立していく高齢者の姿

第三章 薬物依存者
/「ダメ、ゼッタイ。」では防げない
自傷経験のない9割の生徒の多くは、薬物乱用防止講演など聴かなくとも、そもそも薬物には縁のない生活を送り続けるのではないか。そして1割のハイリスク群の生徒は、その様な公園を聴いても結局薬物に手を出す時には手を出すのではないか。

/居場所がない寂しさ
「ヒマだったから」
「淋しさ」や「誰からも必要とされていない感覚」

第四章 外国人貧困者 
約203万人
/同胞のきずな
多くは日本人の男性と結婚をした女性とその子供
母親は「日本人の子の母」として在留資格を取得し、生活保護を利用している

/何が問題なのか
日本人男性と結婚したフィリピンの女性が離婚して生活保護を利用する例が、近年の外国人の生活保護では最も大きな問題


第五章 ホームレス・孤立高齢者
漂流高齢者
/ホームレス地域生活以降事業
緊急一次保護センターと自立支援センター
ホームレスが付き三千円の家賃で入居しながら自立に向けて職を探す

/アウトリーチとハウジング・ファースト
アウトリーチ 職員が困っている人のところに足を運び、サービスを提案するところからかかわりが始まる

第六章 生活保護から見えるもの
/激増する生活保護
2008年 起きたリーマンショック
日比谷公園 年越し派遣村

/求められる自立支援
若い利用者の急増
就職活動に疲れて自宅に引きこもる若者、精神疾患の増加とそれに伴う自殺、崎の見えない中高年男性の再就職活動、アルコールやギャンブルへの依存・・・。中卒、高校中退などの低学歴者 四角や経験もなく、身体のあちこちに不調を抱え、コミュニケーション能力 
生活全体を立て直すところから始めないといけない

三つの対策
生活保護に至る前のセーフティネットを手厚くする
早期に脱却できる体制を整える
貧困の再生産を防ぐための手立てをする

/モノ扱いされる人たち
人をモノとして扱う
冷凍食品に農薬のマラチオンが混入

/承認を巡る闘争
承認という概念「愛・法・連帯」の三つの次元
人から愛されること
認められる経験
役割を与えられる
----------------------------------------------------------
----------------------------------------------------------
■目次  
はじめに

第一章 児童養護施設出身者 「私のことを必要としてくれた」
/ドキュメント=隠された貧困① 児童養護施設出身者
>私のことを必要としてくれた
/家族に黙って家を出る
/乳児院、児童養護施設、そして里親へ
/親権の壁
/自立援助ホームへ
/生活保護は受けたくない
/私のことを必要としてくれた
/実家との和解
/繰返される虐待死
/厳罰化で歯止めを
/児童養護施設の現状
/不十分なケア体制
/施設出身者の厳しい状況
/施設出身者の追跡調査
/自立援助ホームとは
/重なり合う不利
/自立援助ホームと生活保護
/大人のことは信用しないぞ
/共依存の女の子
/死ななきゃいい

第二章 高齢犯罪者 「息子たちに手紙を書いています」
ドキュメント=隠された貧困②  高齢犯罪者
>息子たちに手紙を書いています
/元気をもらいたくて
/病気は大丈夫?
/入院患者に四人の刑務官
/夫と二人で工場を切り盛り
/なぜ刑務所に
/今は天国のようです
/高齢犯罪者大国・日本
/高齢者のモラルが低下した?
/無銭飲食や放置自転車を盗んで刑務所に
/孤立と貧困が犯罪を生む
/困ったら刑務所へ
/累犯障害者
/地域生活定着支援センター
/昔からやっていた
/他に行け
/男物の使用済みトレーニングウェアを盗む男性
/実刑はやむを得ないと考えていた

第三章 薬物依存者 「認めてもらえる場所がある」
ドキュメント=隠された貧困③ 薬物依存者
>認めてもらえる場所がある
/シンナーがあんパンと呼ばれていた時代
/たいしたことじゃない
/逃げ癖がつく
/逮捕されてもやめられない
/あなたが決めなさい
/「分かるよ」と笑われた
/三度目の再使用
/またカネか!
/八王子にもダルクを
/「ダメ、ゼッタイ。」では防げない
/居場所がない寂しさ
/厳罰化で覚せい剤を止められるか
/薬物依存の治療
/ダルク設立のきっかけ
/たった一つのルール
/ダルクの現状
/八王子ダルク
/窓口には自分の足で
/ダルクのこれから
/日本にもドラッグ・コートを

第四章 外国人貧困者 「なぜ、外国人なのに保護が受けられるんですか」
ドキュメント=隠された貧困④ 外国人貧困者
>なぜ、外国人なのに保護が受けられるんですか
/外国人が生活保護をもらえるのはおかしい
/外国人の誰もが受けられる訳じゃない
/同胞のきずな
/ヘルパー資格を取る
/夢は子供のこと
/あなた生活保護でしょ
/日本に根を張る外国人労働者
/リーマンショック後の就労・生活相談の増加
/外国人と生活保護
/何が問題なのか
/ふじみの国際交流センターの活躍
/多岐に渡る生活支援
/二人三脚の相談体制
/変わる外国人支援
/働かせるために呼び寄せる
/ようやく手に入れた普通の生活

第五章 ホームレス・孤立高齢者 「続かないんだよね」
ドキュメント=隠された貧困⑤ ホームレス・孤立高齢者
>元ホームレス
/三千円アパート
/ホームレス地域生活以降事業
/アウトリーチとハウジング・ファースト
/10万円で売れたロレックス
/保護申請はスムーズだった
/落ち着かなくてね
/人間関係はどこにでもある
/静養ホームたまゆらの悲劇
/構造的に生み出される漂流高齢者
/福祉施設からも締め出される
/施設増設は解決の切り札になるのか
/今ある住いを「支援付き」に
/ホームレス支援から始まった
/ケア付き就労とコミュニティビジネス

第六章 生活保護から見えるもの
/忘れ去られた生活保護
/激増する生活保護
/求められる自立支援
/制度の設計では解決できない者
/見えない人間
/モノ扱いされる人たち
/承認を巡る闘争
/インタビューを振り返る
/誰でも生きやすい社会に
/最後のセーフティネットの価値

あとがき
----------------------------------------------------------

0 件のコメント: