妻が友人の中国人と食事に出かけた時に、その友人の友人が日本のアニメなら「河童のやつが好き」と言われたらしく、家に返ってきてから「河童の出てくるアニメって何?」と聞いてくるので、「恐らくこれじゃないか」と紹介することに。
脚本も手がけたという原恵一監督。出身は群馬県。そして原作者の木暮正夫の出身もまた群馬県。同じ原風景を共有していたであろうこの二人。原作者の同名の児童文学を元に、映像化したのが今回の作品。
明らかに都会ではないと思われる通学路や近所の風景は、群馬出身という二人の脳裏にあった「あの頃の風景」が一致したものであろうと想像する。決してテレビや小説で見るようなドラマは起きないが、それでも毎日が楽しい事だらけだった子供時代。
淡い初恋を感じ始める小学校上級生時代。好きな子ができても、それをどう表現してもいいか分からず、またそんな感情を周囲に知られるのがやたらと恥ずかしく、逆に嫌がらせという表現をとってしまう。それでも気になってしまい、ついついちょっかいを出し続けてしまう。そんな子供時代の淡い気持ち。なんてことはないシーンであるが、「あった、あった」とつい共感してしまうものの積み重ねが、見る側にとって「この作り手はそういう小さな感情をしっかり積み重ねて、そして忘れることなく生きているんだな」という基礎作りを手伝うことになる。
夫婦と子供二人。昭和の時代の様なありふれた幸せな家族の風景。仕事をして家族を支える父親。そして優しくも、それでもまだ女を捨ててない可愛らしいお母さん。この登場人物設定がまた絶妙だと思わせる。見終わるとついついエスカルゴが食べたくなるのもまた描写が巧いからであろう。
話自体は決して大げさなドラマがあるわけでも、とっぴょうしもない展開がある訳でもなく、児童文学として極めて広くしられた物語である。それをアニメというメディアを駆使することで、家族の繋がりや平凡な幸せのありがたさを稀有な異邦人として河童の登場によって再認識する家族の姿。そして河童の出現により、ありふれた夏が一生忘れることのできない冒険に満ちた夏になること。
9月に入ったら当たり前の様に皆が教室に戻ってきているが、会わなかった期間である夏休みが、ただの学校のない自由な日々で終わる子供もいれば、河童に会わないまでも人生を大きく左右するような飛び切りの経験、何倍も成長させてくれるような大冒険となる子供もいるという、夏休みの大切さをしることができる。
これは子供だけでなく、自分達にとっても、一つの夏の休みがその後の人生を大きく変えるような貴重な体験に満ちた冒険にすることは可能であると教えてくれる。そんな時間の過ごし方にするためには、同じ場所にこもっているのではなく、少しでも新しいものに出会うことを求めて外に足を踏み出すことが大切だと教えてくれる一作である。
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スタッフ
監督・脚本 原恵一
原作 木暮正夫
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キャスト
冨澤風斗
横川貴大
植松夏希
田中直樹
西田尚美
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作品データ
製作年 2007年
製作国 日本
配給 松竹
上映時間 138分
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