2014年8月31日日曜日

「黒と茶の幻想 上・下」 恩田陸 2001 ★★★★★

高校の卒業15周年を記念しての発足させて高校の同窓会。5年に一度と決めた全体同窓会が来年の夏に迫ってきたために、各クラスの世話人に「そろそろ始動し、役割分担をしていきます」とのメールを送る準備をする。

そんな時に手にしたこの一冊。地方の公立新学校の卒業生が東京の大学に進学し、そこで出会ったもう一人の友人とともに、大学を卒業後、就職、結婚、出産などを経験し、40歳を目前にした時期に、思い切って4人の同窓生での小旅行を決行する。そのテーマは「非日常」。

ドンピシャで今の自分の年齢に当てはまることと、登場人物達の背景などもかなり感情移入できる部分もあり、久々に恩田作品で一気読みしてしまった作品である。恐らく相当部分が、著者自身の人生に重なる部分もあるのだろうと思うが、逆に言えば、地方出身で東京に大学に進学する多くの人がどこかしらに自分の人生と重ね合わせることができる物語であるという点においては、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」と同じ分類ができる作品である。

最近はあまり当たりの作品に出会わなかった恩田作品であるが、やはり日常のすぐ横の非日常に入り込み、その中を「歩きながら」物語が進んでいくというゆっくりした動作の中での物語りは、読書以上の身体体験をもたらし、非常にスムースに物語の同化させてくれる。

「上と外」でも見られてようなうっそうとした森の中で流れる時間と空間は、日常を過ごす都会の中のそれとはまったく違ったものになり、今まで見えなかったものを見えるようにし、聞こえなかったものを聞こえるようにしてくれる不思議なデバイスとして扱われる。

日本に暮らしていると山に上ることは多々あれど、森の中を歩くということは非常に少なくなってしまう。その森を歩きながら、前と後ろに歩いている同行人に語りかけながらも、その実自分に向けて発している言葉が森の中に漂うのを感じるのは心にとって計り知れない効用をもたらすのであろう。

多感な高校時代から20年近い年月を過ごし、その間に進学、就職、結婚、出産などの様々な人生ゲームの一ページをクリアしてきてはいるが、かつて思ったほど自分の中では当時思い描いていた未来の自分の姿にはなっていないと理解しながら今を生きる主人公達。

自分で選ぶことができず、生まれた場所で振り分けられる人生の第一部。社会に出ていき、仕事上の関係性で付き合うことになる人生の第二部で出会う人は、どうしても根底のところで共感をもてないのは、マイルドヤンキーだけに限られて事ではなく、こうしてたまに同級生であつまるまともな大人たちもまたしかり。

自分にとっての人生の根っこがどこにあり、その根っこを共有している人々が人生にとってどれだけの意味をもたらしてくれるかをしっかりと描くのが「夜のピクニック」しかり、著者の一番の強みであろう。

歩きながら話す。そして、旅の中で非日常に出会い、自らの過去に会いに行く。

そんな旅を重ねることができること。
そんあ旅を共有する仲間がいること。

それが人生の豊かさなのだろうと思わずにいられない。


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