2013年12月23日月曜日

「日本人へ 国家と歴史篇」 塩野七生 2010 ★

人生を生きる上で、価値判断の基準となる物差しを持つことは素晴らしい事である。物差しは英語で「スケール」というが、その価値の物差しのスケールもまた長ければ長いほうが良いと思う。

自身が学生の頃に教えていただき、その後教える立場として一緒に学生を受け持たせていただいた恩師の建築家はとにかく古代ローマを専門としており、何かものを考える時のスケールが常に古代ローマ基準。良い建築を選ぶ時も1000年単位で選んでくる。

何かの良し悪しを判断するときにも、「こういう時古代ローマの建築家ならこういう処理をするのではないかな」と言われてしまうと、もう敵わないと思ってしまう。

長い歴史を経て現代でもなお生き続ける古代ローマの建築達。建築や都市という更新される分野の中で基礎となる価値を創り出した時代でもある。そして古代ローマから1000年以上を経った今、物事を思考する時間の起点をローマに持ってくる。

短いスケールでモノを見れば見るほど、あっちこっちに気持ちがブレる。しかし、1000年単位でもモノを考えれば、その間に何が消え、何が残るかが良く見えてくる。そして残るもの。モノの原理原則が何かを見据え、判断し設計する心構え。その姿にはいつも感銘を受けていた。

その建築家と同じ物差しをもって現代を生きる人がこの著者だと思っていた。現代社会にとっては何とも長い年月をかけてローマの物語を書き続けるその姿はやはりブレない姿勢を見て取れる。

そんな著者の新書でかなり売れ行きも良かったと聞いているのでブックオフで手にとって、暫く本棚に放ってあったら、珍しく妻が手を伸ばして読み出したようである。なんでも、「考え方が共感できて今年の一番かもしれない」と絶賛のご様子。

「そうか、そうか。やはり時間の物差しの長い人の見るものはそれなりに時間を遅くしてくれるのだろう」と、相対性理論のようなものの見方など期待してページを開いてみる事に。


1章あたりはところどころに引用されるローマの英雄。ローマ人の物語にものの見方のスケールの大きさを感じながら線を引きながら読み進めるが、徐々に期待していたようなものとのギャップに疑問符を持ちながら進めるので、徐々にページをめくるのが遅くなる。

妻に「何が面白かった?」と聞いても、「ものの見方」と返ってくるが、どうもその視線は古代ローマという悠久の歴史を背景に支えられているというよりも、長いこと日本を離れて海外に住んでいる品の良いおばちゃんのものの様に見えてきて、あれやこれやと外から見た日本へのダメだしばかりに見えてきてしまう。

その度に、「違う違う。これは古代ローマを旅した一人の淑女の思慮深い言葉に違いないんだ」と自分を励ましページをめくる。そんなことをしているので、新書にも関わらず3週間ほど時間をかけてなんとか終えた一冊である。

人には人の受け取り方があり、男女にもまたその差があるのだと思うが、自分にはどうもこれくらいの内容なら、本として出版するよりもブログなどで社会派を気取って発言している多くの人と変わりないと思うのにと思えてしまってしょうがない。

エッセイ集という芯の無い本であるからその印象はなおさらなのだろうが、それでもこういう本が結構売れると言うのは一定の読者がついており、期待して本を手にする層がいるということで、それは間違いなく筆者の今までのブレない執筆活動の賜物なのだと思いながらページを閉じる事にする。

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目次
Ⅰ    
/後継人事について
/葡萄酒三昧
/「ローマ人の物語」を書き終えて
/女には冷たいという非難に答えて
/世界史が未履修と知って
/遺跡と語る
/「硫黄島からの手紙」を観て
/戦争の本質
/靖國に行ってきました
/読者に助けられて
/夏の夜のおしゃべり
/安倍首相擁護論
/美神のいる場所
/歴史ことはじめ    葡萄酒篇
/歴史ことはじめ    チーズ篇
 
Ⅱ  
/滞日三題噺   
/ブランド品には御注意を
/バカになることの大切さ
/ローマで成瀬を観る
/夢の内閣・ローマ篇
/夢の内閣・ローマ篇(続)  
/漢字の美しさ 
/福田首相のローマの一日
/サミット・雑感
/オリンピック・雑感  
/“劣性”遺伝 
/開国もクールに!
/雑種の時代 

/一人ぽっちの日本
/海賊について
/拝啓 小沢一郎様
/イタリアが元気な理由   
/地震国・日本ができること
/昔・海賊、今・難民
/現代の「アポリア」
/ソフト・パワーについて
/八月十五日に考えたこと
/円の盛衰
/戦略なくしてチェンジなし
/価格破壊に追従しない理由
/「仕分け」されちゃった私
/仕分けで鍛える説得力   
/「密約」に想う

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