2010年6月8日火曜日

「DANCER ダンサー」 柴田哲孝 2007 ★★★


「河童」、「天狗」、「竜」と徹底して日本の伝説上の古代説をモチーフにして、現代の時事問題と絡めながら、ハードボイルドな物語を展開していく作者なだけに、どうにかもう一絞りして、なんとか上記の列に加われるような生物を見つけ出してもらいたかった。恐らく「ツチノコ」も考えたが、どうも品位にかけるので諦めざるを得なかったのだろうと勝手に想像するが、「ダンサー」はないだろうとややがっかりするタイトル。

物語は昨今話題のキメラ(Chimera)に関するもの。二個以上の胚に由来する細胞集団から形成された個体であり、ギリシャ神話に登場する生物キマイラを語源にする、いわゆる遺伝子操作によって生まれた生物という意味。

ES細胞―万能細胞への夢と禁忌」にも描かれるように、臓器移植など無限の可能性を秘めるのと同時に、恐ろしい方向性へと動き出す可能性も秘めている遺伝子操作技術。その危険性をお決まりのUMAと絡め、もう一つ人間ドラマを絡めさせて物語りは展開する。

トランス・ジェニック動物と呼ばれる人間の遺伝子を持つマウス。体細胞核移植によるヒトES細胞株を植えつけられ、免疫システムの拒否反応を検査される。喧々諤々の議論が繰り返され、論理的な意見から、宗教的見解、医学的な可能性まで様々な立場からの議論がなされるその技術の在り方。人が生物の創造主になりうるという可能性。

「愛するものができるとその愛の重さの分だけ確実に弱くなる」

「嗜好品に贅沢を怠ると男は精神が枯渇する」

如何にもアウトドアタイプの作者らいし、肉食系の一冊。そして相変わらず「モノ」にこだわりを見せる主人公の様々な台詞。

トランスジェニック動物とキメラの違いを、ダンサーに人格を与えるかの様に説明する終盤。UMAからまた新しい生物へとその世界観を広げたという一冊なのだろうか。

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