2010年6月8日火曜日

「パーク・ライフ」 吉田修一 文春文庫 2004 ★★★★
















イタロ・カルヴィーノ が書き遺した保存すべき文学的価値、「軽さ」、「速さ」、「正確さ」、「視覚性」、「多様性」、「一貫性」 。

その一つ、「正確さ」。

これが吉田修一の文章の最も特徴的な部分なんだと改めて思わされる。

小説を読むことは、ついつい分かりやすい筋道、物語を期待してしまう。通常、始めの数十ページで段々と形を見せ始める物語の大枠を掴めると、すっと話に入っていくことが出来るが、「パーク・ライフ」ではその道筋がはっきりと示されない。決して大きなドラマが起こる訳ではなく、淡々と、しかし驚くほどの洞察力で描かれる正確性をもってある男の日常を書き連ねる。

日比谷公園という都市の大きな空虚を俯瞰の視点と、思いっきりズーム・インした身体の視点を切り替えながら、人生ですれ違うくらいの人々との距離感を描く。

名前さえ知らない男の女が織り成す、現代の物語。

さすがは第127回芥川賞受賞。

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