2015年3月5日木曜日

Landhausplatz LAAC 2011 ★★★★★


ここ数年でもっともみたい建築の一つとしてリストの中にあったのがこの広場。単体の建築物ではなく広場。建築家の作った建築的なアイデアがいたるところに施された建築的な広場である。

この波がうねる様なダイナミックな広場の存在はネットなどでよく目にしていたが、「いかにもありそうなものでなかったものだな」とそのアイデアを評価していたが、2013年のメルボルンのカンファレンスでその設計者であるLAACという設計事務所からキャサリン(Kathrin Aste)が参加していてレクチャーを聞く機会があり、そのプロジェクトの背景や身体との接触度合いによって何種類にも分けられている表面処理などの話を聞き、これはぜひとも実際に見てみたいと切に思っていた作品である。

そして今回、進行中のプロジェクトの為に素材の参考になるかと思い実際にその場に立ったときにどのように見えるのかを確かめるためにわざわざこの街まで足を運ぶこととなった。

街に到着したのが夕方17時過ぎ。雪がちらつく中ホテルにチェックインして徒歩でいける距離にあるLandhausplatzと呼ばれる広場へと向かう。やはり高度が高いせいか相当に冷え込みを感じながら、しばらく歩くとすぐに目の前にポッと広がる広場。雪空の闇の下でも、その不思議な起伏は十分に「今まで見たことのない空間」としてのインパクトを与えてくれる。

恐らく一番高い部分でも地面から1.5m程しか起伏していないのかと思うが、それでも十分なダイナミズムを空間に与えている。街のサイズに適応するかのように、こじんまりとした広さの広場であるが、その如何にも「身体スケール」という横の広がりに、縦の起伏が加わることで今までになかった空間の豊かさや楽しさが生まれている。

滑らかに地面から隆起する起伏は、アフォーダンスを刺激するのに十分で、ついつい斜めの部分に上って歩きたくなってしまう楽しさを内包している。現場打コンクリートで作られたというこの滑らかなサーフェイス。そしてコンクリートという素材性を現すその分割線があることによってより立体を把握することを手助けしてくれる。

そして何より唸ったのはこのような横に広がりのあるプロジェクトを行うときに、それが周囲と接する縁のデザイン。いかに周囲になじむのか、それとも明確な縁を切るのか。その処理によって全く成否が違ってしまうのだが、この広場に関しては横に立つ恐らく最近計画されたと思われる建物の足元にはまるで巻き込むかのように滑らかに接続している。そして北側の象徴的な市の歴史的建物には「ドンッ」と壁にぶつかるようにしているが、垂直な壁に対して微妙にスロープをとることで、新しい建物との関係性と、古い建物との関係性を異なった処理で対応しているのを見せてくれる。

そして残った二面は道路に面するので南側の人を呼び込むようになじむ処理の仕方に対して、長辺方向となる東側では人が座れるようなベンチの高さの立ち上がりが垂直にあがっていたり、駐車場への入り口となる高さを稼ぐように徐々に高い擁壁としてボリュームになっていくなど、しっかりと4面の差異化を図っている点などもひたすら寒い中唸りながら周囲を歩くことになる。

広場の中に目を戻すと浮いたようなデザインのベンチは絶対水平を現し、線として扱われる照明は絶対垂直を表す。これもまた滑らかにうねる立体の曲面をより際立たせるための要素を削ぎ落すプロセスを経てこうなったに違いないと勝手な解釈を重ねる。

立ち上げる面は暗い中にも全く光の当たり方の違う、つまり色の違った面となって視界に現れ立体を理解する手助けとなる。その面が徐々に高さを失い再度面の一部として最後は線として消えていく様子は、幾何学を手中に収めようとするヨーロッパの中に流れる長い歴史を感じずにいられない。

もちろん起伏を楽しむのは、我々のような建築家か、スケボーを楽しむ少年たちで、普通にこの場を「通過する場所」として日常の一部としている人たちにとっては、やはりフラットな場所を歩くことになる。そしてフラットな場所は起伏のついた幾何学がない場所としてまた建築家によってデザインされていることになり、人がこの場所でどこからやってきて、どこに抜けていくかを考えた行動学によってデザインされていることになる。

今度は徐々にスケールを落として素材に目を向ける。

いい大人のアジア人が二人で地面にしゃがんで表面をなでているのを、もう一人のアジア人女性が面白がって写真を撮っているのを、なんだか不思議なものでも見る様に地元の人が訝しげに見ながら横を通っていく。

コンクリートに混ぜる砂利の大きさや種類を変えることと、磨き方を変えることで、座る場所や手が触れる場所などこの広場に7種もの異なった表面の処理が施されているというのが納得できるくらい、場所によって異なるザラツキを見つけ、それが日の光で違った表情を見せながら色合いを変えることを発見していく。

「これはわざわざ来た甲斐があった」と十分納得してホテルへと戻る。

翌朝、なんとか夜のうちの表情を見ておこうと、朝5時に起きだし、防寒に気をつけ、一人冷たい夜の道を進む。さすがに誰もいない夜の広場は昼間とはまた違った雰囲気で心地よい。細い照明がどのような効果を演じるのかと思っていたが、どうやら足元は十分に明るさが確保されているようであるし、広場の隅々まですべて明るくしようとはせずに、歩く場所だけに照度が確保され、明るさと暗さのグラデーションが広がっている。

夜に積もった雪が凍り、特に水下では平坦なところに微妙にスロープがついているために水が溜まり安いのか、特に滑りやすくなっているのを気をつけて、鉄製のベンチに溜まった雪が徐々に溶けて水滴として滴る場所の石が微妙に変色してしまっているのを確認し、北側の建物付近の照明は横に向けて照射するタイプのものになっているのを発見して、あまりの寒さに絶えられずホテルに戻って再度布団にもぐりこむ。

朝食をとりチェックアウトを済ませ、再度3人揃って今度は晴れ上がった日の下で広場の様子を見ようということで、最後にもう一度寄っていくことにする。これで、曇り、夜、昼間の違った状態で同じ空間を十分に体験することが出来た。やはり燦燦と降り注ぐ陽の下で見ると陰によって起伏の立体が良く分かる。何よりも、北の建物の後ろに聳えるまさに壁の様な山の威容がこの街の風景をつくり、それがあることを前提としてこの広場が成立しているのだと理解して次の目的地へと向かうことにする。




























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