2014年12月17日水曜日

ドバイ Dubai アラブ首長国連邦 UAE



年末も差し迫ったこの時期に、仕事の関係で訪れることになったのが中東の金融センターとしての存在感を増している新興都市・ドバイ。アラブの中に産み落とされた資本主義の卵が制御不能のままに人類の欲望を投影するかのように都市として成長したかのようなイメージを持つその都市に初めて足を踏み入れる機会に恵まれた。

「沸騰都市」でも描かれたように、国として独立してわずか40年の歴史しか持たない中東の国・アラブ首長国連邦。英語でUnited Arab Emiratesと表記される様に7つの首長国の連合体としての体を成す国家の中であり、国を代表するアブダビ首長国に次いで二番目の規模を誇るのがこのドバイ首長国。そしてその首都がこのドバイという都市という訳である。

分かりやすく言えば力を持つ7つの王族がそれぞれに自治体を治め、その連合国家として国を構成し、体外的な代表としてはアブダビの王族が対応するという形がこのアラブ首長国連邦。United Arab Emiratesから通称UAEと呼ばれている国である。

アラビア半島のペルシア湾に面する国であり、南と西は中央最大の国家であるサウジアラビアと隣接し、東はオマーン。そして北はペルシア湾という地理となる。

エミレーツ(Emirates)と聞けば、ついつい航空会社の名前だと思ってしまうが、その元はこの首長国という意味であるという。各首長国は世襲の首長による絶対君主制に基づき統治されているが、あくまでも親戚も含んだ家系の中から次の指導者を選ぶという方式が取られているという。大統領は最有力者であるアブダビ首長のナヒヤーン家、副大統領は二番目に力を持つドバイ首長のマクトゥーム家が世襲により継ぐといい、もちろん選挙は行われない。

石油や天然ガスなどの資源による収入によって国が運営されており、税収に頼ることの無いレンティア国家であるUAEでは、もちろん自国民にはその資源の恩恵が手厚く施されるために、他のアラブ国家で発生した独裁者に対する不満が爆発した2011年の民主化運動「アラブの春」の影響などはまったくなかったという安定した国家運営が行われているという。

石油からの収入は国家へともたらされるわけではなく、あくまでもその油田を持つ首長国のものとなるという。その為に、油田を多く持つアブダビ首長国はもちろん膨大な財政を持つことになる。

なんといっても特徴的なのはレンティア国家(Rentier state)として石油収入によって豊かなこの国に出稼ぎに来る外国人の割合が圧倒的に多く、自国籍の国民はたったの13%のみであり、スリランカやインド、バングラデッシュなどから多くの労働者がビザを取得してこの国にやってきて、この国と都市の発展の基礎となっている。

しかし、レンティア国家として自国民の利益を守るために、多国籍の人がUAEの国籍を取得するのはかなり困難になっていたり、家族を伴っての移住は認められていないなど、シンガポールとは違ったハードルの設定がされているようである。

それと同時に自国民への待遇は厚く、教育や医療は無料であり、税も無く、公務員への登用が優先的になされるという。街中を歩いていても、平日の昼間からショッピングモールの中のコーヒーショップでなんら本を読むでもなく、ぼーっと過ごしている働きごろの現地民の男性の姿を多く見かける。恐らく豊かな家庭に育ち、生活の為に労働を行わなくて良い階層の人々だろうと想像する。そして同じく両手をショッピングバックで一杯にした黒のアバヤで身を包んだ現地の女性の姿も多く見られる。

労働が生きるために必須でない国。

誰もが石油依存の経済システムの限界を叫び、埋蔵量ピークは既に過ぎ去ったとデータが出ても、石油エネルギーをベースとして組み立てられた現行の世界システムでは、まだまだ終わりの始まりを自分達の世代の現実の問題として受け止める人々はいないのだろうとつくづく思わされる。

それと同時に、レンティア国家という、税収に頼ることの無い国家運営の在り方が、やはり子供でも家庭でも、身にあった収入の中でやりくりをしながら支出をコントロールするという資本主義の当たり前の考え方の中で生きてきた自分にとっては、なんとも不健康なそして持続可能にはとても思えないのもまた事実である。

そんな石油をキーに良くも悪くも世界の中で重要な舞台へと持ち上げられるレンティア国家であるUAE。石油が主力を占める首都でもあるアブダビに対し、敢行と金融を主要産業とするドバイ。

この街で元々盛んであった真珠産業は、日本での養殖真珠が成功したために衰退したといい、その代わりに現在イスラムの民族衣装の布の大部分は日本から安く輸入しているという。

かつては漁村として存在していた砂漠の街ドバイが、石油依存から脱却し中東の金融センターとして都市開発を行い、ものすごい勢いで超高層ビルが建ちならず人口の都市が砂漠の中に現れたというイメージを持つ人が多いのではと思う。

テレビで描かれるその姿は資本主義の祭りが中東で行われ、誰も彼も金をもうける為にドバイに向かうという印象を植え付けた様だが、実際に見てみると2012年のドバイのGDPは約8兆円であり、日本の新潟県と同じ規模と言う。外から見ていると恐ろしい数の人々が流入しているかと思うが、今でも人口は220万人程度だというから、まだまだ日本の中核都市レベルと言うことになる。

しかし住民の実に90%が外国人であり、その中でも特にインド人が多く、外国人のうち約60%を、インド人を主とする南アジアからの出稼ぎ労働者が占めるという。街中をタクシーで走っていても、「Indian School Bus」という黄色のバスを公共交通のバスよりも多く見かけることになる。
 
それでもその成長振りは確実で、ドバイは現在世界第17位の金融センターと評されており、中東では第1位に位置する。そして世界有数の観光都市に成長しており、現在世界で8番目に外国人旅行者が多く訪れる都市であるといい、もちろん中東では随一の数である。

その成功は国家が力を入れて世界中から観光客を呼び込むために考えられる手を金に限りをつけることなく実施しているからであろう。「中東の交通のハブ」となるべく航空インフラの充実に力を入れ、ナショナル・フラッグ・キャリアであるエミレーツ航空が世界のすべての大陸との間を結び、今でも毎月多くの路線を増やしていながら、国際ハブ空港として24時間人とモノを運び入れ流していくドバイ国際空港を中心に、物量の中枢としての位置を確立することに成功している。

これはとにかく大きな力になっていると思わずにいられない。アジアからヨーロッパやアフリカに行く際に、どうしても「ドバイ経由」という選択肢が浮かんでくる。その価格と便利性の為に選ぶ経由地で、せっかくだからと一日滞在をするだけで、一体どれだけの経済効果がこの街にもたらせれているのかと思うと、日本の今後の航空戦略がどのように進むべきかを考えずにいられない。

エミレーツ航空がやることをとにかく真似してされに質を上げていく。といわれるエティハド航空(Etihad Airways)は、アブダビに本拠を置く国営航空会社であり、こちらもまた世界中の都市とこの国を繋いでは人とモノをこの国に運んでくる。

「石油マネーか・・・」と苦い思いを感じながらも、やはりその安い価格にフラリと誘われ利用することが多いこの航空会社も、その先にはレンティア国家の繁栄につながると思うと複雑な気持ちにならざるを得ない。

ドバイといえば、その筍の様に生み出される数々の奇怪な高層ビルと同じくらい有名なのが、海の上に作り出された人工島のプロジェクト。パームの木の形を使ったパーム・アイランドに、世界地図をまねた「ザ・ワールド」プロジェクト。その開発会社である「ナキール」が引き金となった2009年の「ドバイ・ショック」もまた世界を巻き込んでいったのは記憶に新しい。

ドバイ・ショックを救うために、アブダビから相当な石油マネーが投じられ、一時は開発がかなり止まり、大きなプロジェクトはアブダビに移ったと噂が流れていたが、それでもドバイの「中東の金融センター」としての地位はゆるぎなく、2020年には中東初の万国博覧会の開催が決まったことを祝うポスターが街の彼方此方で見受けられる。

そしてイスラムといえば宗教。7世紀に生まれたイスラム帝国の影響でイスラム教が広がる中東地域。もちろんこのUAEもイスラム国家としてイスラム教の信仰が広がっている。しかしながら、多くの外国人によって都市が動いているこのドバイでは、極めて開放的な政策が取られ、場所によってはアルコールも楽しめることができるという。

世界がフラットになった現代において、それでもまた「異郷」を感じさせてくれるイスラムの地。そんな非日常に何が待ち受けるかをできるだけ身体に取り込む滞在になることを願い砂漠の都市へと到着する。




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