2014年12月17日水曜日

シェイク・モハメッド文化理解センター Sheikh Mohammed Centre for Cultural Understanding ★★★★★


今日は深夜発の飛行機ということで、できるだけ街を見て、この街の人々の生活がどのようになっているのかを理解し、建築と空間ができることを理解しようとあちこちを回ることにする。

あらかじめ調べておいた情報を元に、ホテルのコンシェルジュと相談をして、まずは向かったのはシェイク・モハメッド文化理解センター(Sheikh Mohammed Centre for Cultural)、通常SMCCUと現地の人も呼んでいる施設。外国人にイスラム文化、UAE文化の理解を深めてもらうためにと解説された施設で、予約することで朝食やランチなどがいただけるということで、「あと10分で朝食が始まるらしいけど、予約するか?」というコンシェルジュに「今すぐいくと伝えてくれ」と言い残しタクシーに乗り込む。

シェイク(Sheikh)というのは、「部族の長老、首長」という意味合いらしく、ガイドブックなどを見ていてもかなりこの言葉が冠せられた施設があることに気がつく。やはり歴代のリーダーなどを記念して様々な施設が作られ、その名前を冠することが比較的当たり前なのだろうと想像する。

タクシーの運転手に「ここだ」といって下ろされた場所にはレストランがあり、てっきりそこが会場なのかと思ったら、「SMCCUは二つ先の駐車場の角だ」というので、指を指された先に進んでいくが、どうにもサイン計画が悪いので不安に思いながら先を進み、進んでは人に聞いて徐々に近づいていくしかない。

建物の案内も殆ど無く、かろうじて入り口上の表示されている名前で認識し中に入り予約の名前を伝え、一人60AEDを支払い中へ。既に20人ほどの参加者が中央のカーペットの上に並べられた食事を囲み、コーヒーを飲みながら説明を受けているところで、靴を脱いで末席へと収まり説明を聞くことにする。

アバヤと呼ばれる黒の布でできた民族衣装で身をまとったUAEの現地人である女性が非常に綺麗な英語で説明をしてくれながら、文化、宗教、慣習などこちらが「聞いてはまずいだろうな・・・」と思うようなタブーまで踏み込んでこと細かく説明してくれ、少しでもこのUAEという国、そしてイスラムという文化を外部の人に理解してもらおうということのようである。

まずは食事の説明。昨日あった現地の協力会社のレバノン人も言っていたが、アラブ文化圏ではこのようにして床にカーペットを敷いてその上に座って大人数で食事を取り、話をするという。

ホストの女性はかなりユーモアのある喋り上手な女性で、「私たちはこういう食事の場所で将来の旦那やお嫁さんを見つけるの。遠慮なんかしてたら残り物しか得られないわよ。皆どんどん食べて、どんどん他の人とも喋ってね」という具合。

勉強不足の為にイスラム文化については殆ど知らなかったために、テレビの向こうで様々な分派に別れ、他宗教とも争いを繰り返す傾向にあるというイメージを描きやすいテレビの向こうのイスラムの人々の生活や文化を、こうして生きる人間として言葉で伝えてもらうことは非常に豊かな経験であると実感しながら説明を受ける。

食事を取りながらプログラムの参加者から様々な質問を受けていく。食事から今度は男女の恋愛の始め方から結婚までにいたる3段階についてなど、なかなか他の文化圏にいる人には知ることはできても、知ろうと思うきっかけがない事柄をカラフルに説明してくれるので、情景を浮かべながら聞き入ることができる。

かつては教育が浸透していなかったために、宗教、文化、慣習のいったいどれからそれぞれの事象が来ているのか分からないままにしたがっていたのが、今では教育が行き届き、個人がそれぞれの事象がどの背景からきているのかをしっかりと理解し、必ず守るものと、自分の好みで選べるものと選択をしながら生活を楽しんでいるという言葉に、ノーベル平和賞を受賞したマララさんの姿を思い出さずにいられない。

気に入った異性が現れた場合に、お付き合いを始める前にはまず家族同士が会合を開き、それぞれの親の職業や地位、収入や結婚後の条件など細かい決め事をしたのちに初めてデートが許され、公の場のみでのデートから、プライベートな場所でのデートへと進んでいく厳格なステップ。

質問に答える彼女もまたついこの前結婚をしたといい、「それまでにどれだけの男性とお付き合いをしたのか?」という質問に、「私は4人目で結婚をした。それまでにデートしていた男性も、神が運命の男性へ出会うために導く過程で必要な人たちだったから何も問題は無いの」と言う姿に、欧米文化に染まりきった我々とは違った世界観で人生を生きているアラブの生活の奥を垣間見た気がする。

その後イスラムといえば・・・と思い浮かばれる一夫多妻制についての質問。妻は4人まで持つことが許されており、必ず既に結婚している奥さんの許しを受けることと、どの奥さんも、そしてどの子供達も公平に愛さなければいけないという条件があるとのこと。実際、UAE内部でも二人以上の奥さんを持つ男性は数%ということで、殆どの男女が一夫一妻で通しているという。

元々これは、「離婚すること」が女性の5つの権利の中の一つとして掲げられているイスラムの国において、子供は必ず女性に親権がいくことから、子供をたくさん抱え、離婚した後に、経済的に困窮することで売春などに身を落とすことがないように、社会としてのセーフティーネットとしての意味合いが強いという。

寄付や援助と言う形で不安定な生活状況におかれるよりも、結婚と言う社会的に安定した状況に女性をおくことで安定した社会を形成するという意味合いだという。

また女性に与えられる5つの権利についても詳しく説明がされたり、参加者から「Arranged Marriageについて現在はどうなっているのか」、「友人のネパール人がブルーワーカーとしてドバイに仕事に行く多くの自国民はドバイのことを良く思っていないと言っていたが、外国人労働者についてはどうなのか?」などかなり質疑が行われる。

そうしたやり取りを眺めている中で感じるのは、この国の人は女性も含め、喋って、自らの意見を言い合うことが極めて日常生活の中に溶け込んでおり、それが近代化をした現代においてもかなり守られているのではとこと。とにかくこの国の人は男女問わず自信満々に喋り、そしてかなりのディベート能力を身についけている。話の道筋をしっかりと頭の中で描き、理論を構築して相手に説明するのでも打ち負かすので、かなり喋る能力は長けていると思われる。それは今回話す機会があった仕事関係のアラブ国家出身の人々にも共通して感じられる印象である。

食事が一段落したタイミングで、今度はその特徴的な服装についての説明。女性のボランティアが前にでて、アバヤの着方を実演してもらって、その成り立ちや意味を説明してくれる。驚いたことに、男性のカンドゥーラと呼ばれる白い布の殆どが今では日本から輸入されているという。これはかつて真珠産業が盛んだったドバイが、日本での真珠産業に取って代わられ、その代わりに日本から安く白の布が入ってくるようになったという。

説明の中で最近のアメリカ人科学者の研究によれば、黒い色が太陽光の熱を集めやすいというのはまったく根拠に欠くことだと立証されたという。どの色も等しく熱を受けるといい、それは熱遮断に優れているからと言い、「みんなも黒のサングラスをしてるでしょ?」となんだか言いくるめられた気分になりながら何とか納得する。

「Oh, I have nothing to wear for today...」と嘆くのはどこの国でも、どの時代でも一緒でしょ?男性は一年同じジーンズを履いていても平気だけど、男性と女性は違う生き物なの。男性は朝、頭をセットするのにどれだけの時間をかける?それに比べて女性は一体どれだけの時間を髪のセットにかけなければいけないの?

などと畳み掛けるようにプログラムの参加者を圧倒する話術でイスラム文化をあくまでも一人の人間の生活の一部としてカラフルに描きだしてくれるために、参加者もどんどんと質問を投げかけ、そのやり取りの中で少しずつイスラムの文化について興味を感じ始めることになる。

誰でも始めは何も知らないし、興味も無いが、重要なのはどこかで興味を持つきっかけを得ることができるかどうか。そしてその興味から自ら調べたりと自らのものとするために行動を起こすかどうか。そういう意味でもこのプログラムは参加者にイスラム文化に対して十分な興味を持たせることに成功していると言える。

その中でも気になったのが昨日の協力会社のドバイ在住のレバノン人が言っていたことでもあるが、このドバイでは人口に占める現地人の割合が20%を切っており、その他は全て他国からの労働者だという。そこには知的技術者として高額所得を得るような人もいれば、パキスタンやインドなどから出稼ぎとしてやってきて、建築現場やタクシーの運転手として稼ぎ、その稼ぎの殆どを国に残してきた家族や親戚に送っている人たちだという。

しかし国としても移民労働者が必要だということを認めているために、労働者を受け入れる会社には必ず労働者用の住宅を用意し、十分な労働環境を与えることを義務つけているという。第一、誰もが自国で働くよりも高い収入を得られ、それを望むために皆来ているから誰に取ってもいいことではないかという持論を展開する彼女。

その為に必然的に国籍を持つ現地人には多くの特権が与えられており、同時に外国人がこの国の国籍を取得するのは非常に難しいという。天然資源などの労働ではなく土地に付随する稼ぎに依存するレンティア国家(Rentier state)の在り方をまざまざと見させられたような気がして、彼らから感じられる自らと自らの国家に対する自信のよりどころを垣間見た気がする瞬間でもある。

一時間ほどのプログラムで朝食を食べてお腹も満たされ、1AED(ディルハム)がおよそ33円前後なので、今回は一人約2000円弱(60AED)。これだけイスラムの文化に対して好奇心を与えてくれたことを考えると、とてもお手ごろなプログラムだといえる。その後センターが企画しているジュメイラ・モスクへのツアーの申し込みをしようとしたが、残念ながら毎朝10時からのみと言うことで、「せっかくなので周囲から見るだけ行ってみるよ」と伝えてセンターを後にして、周囲のドバイのクリークと呼ばれる川の周辺に広がる昔ながらの街並みを散策しながら、中東に来たのだとやっと体感し始めて一日を開始する。


















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