2013年12月27日金曜日

都市間競争

プーケットに来て驚くのが、圧倒的なロシア人の多さ。それにもまして、街自体がロシア人用にフォーマットされてしまっていること。

街のいたるところの看板は、ロシア語でかかれ、レストランに入れば自分達以外はほぼロシア人家族。メニューを見ればまず最初にロシア語で、その次に英語、中国語でタイ語。

そのロシア人が特別裕福そうな感じではなく、如何にも中流という雰囲気なのもまた驚く。普通の家庭が年末にタイにバケーションで数日滞在できる。それほどの経済水準に国自体が成長しているという事実。

それに対して受け入れる側のこのプーケットの街。資本主義というものがそもそもそういう性質のものだからであるが、タイの街であるにも拘らず、街中がロシア人の為にフォーマットされ、共通言語のタイ語は見かけることなく、ロシア語、英語で街が覆われる。

恐らくレストランのメニューも地元民が普通に暮らす単価より明らかに高く設定されており、その理由となるような特別なサービスや特別な材料は使われておらず、「これくらいのマージンを乗っけても、街全体として価格破壊を起こさなければツーリスト達は払うはずだ」という思惑が透けてしまっているのは否めない。

かつてはアメリカ人やイギリス人相手、その後一時期日本人が大量に押しかけ、中国人とロシア人に人口移動の重点が移動しているという事だろう。その度に新しい言語のメニューを作り直し、同じことを繰り返して生きていくこの街。

このプーケットが相手にしているのは、決してロシア人ではなく、バリ島やフィリピンの小さな島など、同じように経済の後ろ盾を得て、大量のマネーを落として要ってくれるツーリスト達の受け皿になろうとする南のリゾート地達。

彼らなりの努力をし、なんとか要望に応えることで、街が生存でき、そこで生きる人たちの生活も成り立っていく。明らかなる都市間競争の一シーンがそこで繰り広げられているわけである。

少し前に日本国内の都市の勝ち組、負け組について考えた「吸い上げる都市」だったが、結局ここプーケットでも同じことが行われているわけである。飽くなき都市間競争。リゾート都市として負けることはここに住まう人の生活が成り立たなくなるだけであり、新規参入し新しいツーリズムの価値を携えてくる新たなる新興都市に対して常に優位に立たなければいけない。

ツーリズムではなく、人の流れ、経済の流れ、ビジネスの流れ、文化の流れにおいても、それはひたすら加速し、際限なく国際化し、全世界を舞台にして繰り広げられる。

今の日常でも接する数々の外国人。彼ら一人一人に「何故ここにいるんだ?」と聞いたら間違いなく、「より良い機会と仕事と人が集まっているからだ」と答えるだろう。国境という見えない線を越えて、限られた都市へ、更にその上の都市へとつながって行くモノとヒトの流れ。

東京の相手は、大阪や名古屋ではなく、ましてやマドリッドやイスタンブールなどでもなく、今や北京、上海、シンガポール、香港となっており、これは誰も止められない。

アジアに向かう優秀な人材が、東京に向かわずに上海に向かえば、それは都市の魅力においての負けを意味している。

優秀な人材であればあるほど、その上限は無い。より上の条件、良い機会、良い生活とキャリアアップにつながる場所。その能力を発揮できる場所へと人は動き続ける。

それがどこまでいくか?国の中での負け組都市を大量に作り出すだけではなく、国家間でも古く新しい社会に対応できないままのかつて繁栄した都市は衰退しながら臨界点で自ら変革を受け入れていくことになる。

かつて言われた地元回帰。「なぜ戻る必要があるか?」を考えると、それは家族であり、友人であり、自ら育てくれた故郷であるが、都市間の移動がより容易になり、生活圏の拡大によってある程度の距離と時間が問題にならないようになれば、それすら意味を変えてくる。

緩やかな階級社会の次に来るのは、明らかなる都市間格差。

徹底した効率化でもそれでも必要となる単純労働力を提供する低金銀労働者と共存しながらも都市の衰退に敏感な都市間ノマドとして生きる人々。やがて都市が多国籍の特権的場所に成り代わる日も遠くは無い。

競争に勝ち抜けなかった、
競争に参加しなかった
過去の栄光に胡坐をかいていた都市は取って代わられる

しかし、新しい都市が簡単に生まれるわけにはいかない。それが都市の難しいところであり、何故ならそれは都市は歴史を下書きにして作られているからである。

問題は都市の行く末を決定する力を持った人々が、どれほど敏感にこの世界の潮流を感じ取り、どれだけその圧力に恐怖を感じているかどうかである。

恐らく魅力を失いながらも、それでもある種の需要には応えつづけていくであろうプーケットの姿を見て、その奥に日本の様々な都市がこの先100年、どのような時間を過ごしていくのかに想いを馳せずにいられない。

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