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第56回(2010年)江戸川乱歩賞受賞作
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日常に戻るとなかなか読書の時間がとれないもので、なかなか消費されていかない本が本棚から恨めしくこちらを眺めているようでどうも罪悪感に苛まれながら日常を過ごすことになる。
年末だということで、中国ではカレンダーが違うから年末年始も普通に仕事だが、そこは外国人という特権を行使し、仕事への影響を最小限に抑えて数日だけ激寒の北京から暖かいタイへと向かう事にする。
寒さとストレスと疲労で、とことん緊張しきった身体中の神経を少し和らげ、「何もしない事」を目標にただただ好きに読書をする時間を過ごそうと妻に言われ、旅のお供に何を持っていこうかと本棚の前に立つのはなんともいえない至福の時間。
流石に長いこと専門書を読んでないのはまずいだろうと数冊の建築本。こういう時間に新書を持っていくのもなんともさもしい気がして、できることなら物語を読もうを文庫を漁る。
「できる事なら脳のアイドリングの為に、軽めにサラッと読めるものは・・・」と手にした一冊。「江戸川乱歩賞受賞作」とくれば、抜群の安定感に違いないとほくそ笑む。
空港にて搭乗を待つ間に読み出すのだが、なかなかペースが掴めない。どうも素人臭い展開だなと思ってしまうありがちな構成かと思わされる前半戦。それに追い討ちをかけるのが珍しく小説の登場人物として採用された建築家の設定。
国立大学の建築科を卒業し、建築事務所に入所して早速設計を任されてしまったり、30代中頃にして、大学の先輩に誘われて事務所を設立し、他にも忙しくプロジェクトを抱えながらも地元の大きな開発を受注したりと、「ないない」とツッコミを入れたくなるばかりでどうも物語りに集中できない。
一体どんな時代の建築事務所をモデルとしているのか知らないが、現代日本で建築事務所を経営していくとしたら、そんな簡単に仕事は回ってこないし、マンションを購入し、車を乗り回し、打ち合わせや現場確認に飛び回る。平日にも関わらず夜の8時には地元に車で戻ってこれるというから、恐らくそんなに忙しくないか、建築家の日常がどんなものかをよく調査せずにイメージ先行で書かれたのだろうと一人更につっこむことになる。
まぁ小説だから・・・ということだろうが、そんなにうまい事いかないもんだし、これが建築家の生活だと世の中の人は思ってしまうのかとなんだか要らぬ心配をしながらやや不満げにページをめくる。
それにしてもなかなか小説の登場人物としては選ばれない建築家というのは、なんとも退屈な日常を送る職業なのか。それとも普通に生きていれば、なかなか出合う機会もないので、登場人物として利用しようとも思いが回らないのだと更に勝手に想像する。
この「登場人物に建築家がいる」という事と同じくらい、ひっかかって中々先に進めなくなった要因の一つが「女性への暴行」。物語の肝になる部分だが、地方都市のやさぐれた金持ち息子が、高校生相手に山の中でレイプをし、更にいい大人になった相手に再度身体を要求する。
「何ともチープな設定だな・・・」と思ってしまうが、テレビの報道を見ていると、どこかの都市で女性を車に拉致し、暴行をし、更にお金を獲った人間が逃げているというニュースを目にし、ひょっとしてこの設定もあながち絵空事ではなく、実はそういうことに巻き込まれ、心と身体に傷を負った女性が沢山いるのでは?と思わずにいられない。
そんな訳で、最初はなんとも退屈な展開なのだが、徐々に物語は進み、現在が23年前の事件と繋がり、徐々に4人の幼馴染が誰でも犯人になりうる展開になるとそこそこ引き込まれながら読み進める。小学校の校庭に幼馴染4人で埋めたタイムカプセル。
日本人であれば誰でも自分をその中の誰かに投影できるのではという分かりやすい登場人物の役割分担。事件をすらすらと解いてしまうやり手の警察官が23年前に流れ弾を受けた主婦の子というのはやや無茶な気がするなど、ところどころにツッコみどころ満載だが、アイドリングには丁度良かった一冊である。
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