2013年11月25日月曜日

「閉鎖病棟」 帚木蓬生 新潮文庫 1994

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第8回(1995年) 山本周五郎賞受賞
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かつてある先生に言われたことに、「本と言うのは出合いであるから、買おうか迷って買わなければ、もう二度とその本を手にすることは無い。だから迷ったら必ず買いなさい。」と。

そんな出会いだからこそ、一度手にしたのなら、たとえ読み続けるのがどんなに耐え難くても、最後の1ページで今までの印象をガラッと変えてしまう展開があるかもしれないので、出会ってしまった運命を受け入れて、決して投げ出すことなく読みきることを心に決めていたが、しかしこの一冊はきつかった・・・

どこかで上り坂のピークのたどり着き、一気に物語が加速するのかと思うがどうにも頂が見えてこない・・・

物語の舞台は精神病院。

中学時代のある日、国語の担当であった若い女性の先生が、授業開始と共に「教科書をしまって。大切な話がある」と深刻な顔をして話し始めたのを思い出す。何でも昨日、ある生徒が別の生徒に対して家族が街にある精神病院に入院していることをからかっているところに出くわし、とても悲しい思いをしたということで、精神病院ということについて先生の思いを語っていた。今思うと熱い先生が居た時代だったんだと思わずにいられない。

そんな外からはなかなか中が見えにくい精神病院のお話。著者が現役の精神科医ということで恐らく日常的に精神を病んだとされた人々を相手にしている精神科医にとっては、現代社会にとっては何が「健常なのか?」と問いかけずにには、その日常をまともに過ごせないのだろと思う。職務に真摯であればあるほど、そう思い、深く悩むに違いない。

恐らくそんな思いを主題にして、精神病院という中に入ってしまうと、「患者」として人格を剥ぎ取られて一生を生きていくということに対して著者なりのメッセージが込められているのだろうと思わずにいられない。

登場人物がそれぞれに重い過去を抱えているのだが、そのニックネームや複雑な行動原理などのお陰で誰が何をしたのか?がとても理解しにくい。しかもそれぞれにニックネームがついているのも手伝って、頭の中で物語の枠組みを作り出すのが難しくさせている。しかも健常者に対して行動がなんとも一貫性がないというか突拍子がないと言う特徴と持つのが精神病院の入所者達であるから、それぞれの行動を追いながらも話を追っていくのが非常に難しい。そしてそれらの断片が紡いでいくはずの話の筋がなかなか見えてこない。

その忍耐力を試されているような物語。精神科医として毎日どのような時間を過ごしているのか、少しでも世間と共有し、理解してもらい、その日常の奥に反射するように見えている「健全な社会」とは何か?を問うているのは良く分かる。

ひょっとしたら次のページに人生観を変えてしまうような展開が待っているかもしれない・・・などと、ページを閉じるのをなんとか止めようとする思いに苛まれながらもしかし、流石にこれは限界だということで半ばを過ぎたあたりで本を閉じることにする。

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