2015年3月8日日曜日

ルーブル・ランス美術館(Louvre-Lens Museum) SANAA 2012 ★★★★★

一昨年、GAの二川さんが我々が中国東北部の都市・ハルビンにて手がけた中国木彫美術館(China Wood Sculpture Museum)の撮影に来てくれた際に、「この数年で訪れた建築でどれが一番印象強かったか?」という質問に対して答えとして返って来たのがこのルーヴル・ランス美術館(Louvre-Lens Museum)。 

パリのルーヴル美術館はその収蔵品の多さから、パリの美術館では展示スペースが足りず、常時90%近いコレクションが倉庫に眠っているという。出来るだけ貴重な美術品を社会に対して有効活用するためにも、新たなる巨大な展示スペースを可能とする美術館の建設を企画する。

様々な自治体が手を上げるなか、アートによって衰退する都市に人の流れを呼び戻し新たなる活力を手に入れたスペインのビルバオの例を元にして様々な選考を経て、フランス北部のランスが建設地として選定される。

その後建築のコンペが開催され、世界の注目する大プロジェクトを日本人の妹島和世と西沢立衛による設計事務所SANAAが勝ち取ることとなる。

1991 再春館製薬女子寮 熊本県熊本市 (妹島和世)
1996 岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー・マルチメディア工房 岐阜県大垣市
1998 ウィークエンドハウス 群馬県碓氷郡(西沢立衛)
1998 古河総合公園飲食施設 茨城県古河市
1999 飯田市小笠原資料館 長野県飯田市
1999 オペーク・ギンザ 東京都中央区 (妹島和世)
2000 岐阜県営住宅ハイタウン北方 I期+II期 岐阜県北方町 (妹島和世)
2000 横浜市六ッ川地域ケアプラザ 横浜市
2000 ヴェネツィア・ビエンナーレ第7回国際建築展 日本館『少女都市』
2000 hhstyle.com 東京都渋谷区 (妹島和世)
2001 鎌倉の住宅 神奈川県鎌倉市(西沢立衛)
2001 オペーク・ナゴヤ 名古屋市中区 (妹島和世)
2003 梅林の家 東京都 (妹島和世)
2003 ディオール表参道 東京都渋谷
2004 船橋アパートメント 千葉県船橋市(西沢立衛)
2004 金沢21世紀美術館  石川県金沢市
2005 森山邸 東京都(西沢立衛)
2005 鬼石多目的ホール  群馬県藤岡市 (妹島和世)
2006 ツォルフェアアイン・スクール ドイツ
2006 トレド美術館ガラスパビリオン アメリカ
2006 海の駅なおしま 香川県直島町
2007 小山登美夫ギャラリー代官山 東京都渋谷区(西沢立衛)
2007 ニュー・ミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アート NY
2008 十和田市現代美術館 青森県十和田市(西沢立衛)
2008 ガーデンコート成城 United Cubes 東京都世田谷区 (妹島和世)
2008 大倉山の集合住宅 神奈川県横浜市 (妹島和世)
2009 サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2009 ロンドン
2010 熊本駅東口駅前広場 熊本市西区(西沢立衛)
2010 豊島美術館 香川県土庄町 (西沢立衛)
2010 逢妻交流館 愛知県豊田市(妹島和世)
2010 ローザンヌ連邦工科大学ラーニングセンター スイス
2011 軽井沢千住博美術館 長野県軽井沢町 (西沢立衛)
2011 SHIBAURA HOUSE 東京都港区(妹島和世)
2011 日立駅自由通路および橋上駅舎 茨城県日立市
2012 ガーデン・アンド・ハウス 東京都(西沢立衛)
2012 ルーヴル・ランス フランス
2012 ヴィトラ・ファクトリー ドイツ
2013 京都の集合住宅(NISHINOYAMA HOUSE) 京都市(妹島和世)
2013 Junko Fukutake Hall 岡山市
2013 森の屋根ときのこ 京都市左京区(西沢立衛)
2013 小豆島の葦田パビリオン 香川県小豆島町(西沢立衛)
2014 ヨシダ印刷東京本社 東京都墨田区(妹島和世)
2014 總寧寺永代供養施設「無憂樹林」 千葉県市川市(妹島和世)
2014 団子坂の家 東京都 (妹島和世)
2014 Junko Fukutake Terrace 岡山市
2014 日本キリスト教団 生田教会 川崎市麻生区(西沢立衛)
2015 なかまちテラス 東京都小平市 (妹島和世)

こうして年表として作品を見てみると、二人の個別の設計活動と協同での活動、住宅から商業施設、インスタレーションや公共施設など幅広いプロジェクトの内容、国内の主要都市から地方での設計から世界の各国でのプロジェクトの展開。

その中で確実に設計事務所としての蓄積を蓄え、能力と経験によって対応できる幅を持ち、同時に幾つものプロジェクトをコントロールする能力がオフィス内にあり、実際にできた建物が使用する側からしっかりとした評価を得ていく。

2003年にこのルーヴル・ランスの計画が立ち上がった際に、コンペに参加しショートリストされるだけの実績と力があり、コンペ主催者のリストにしっかりと挙がってくる場所にいたというのが良く軌跡として見えてくる。

どれ一つとっても、常に事務所の方向性に沿っていながらも何か新しいことにチャレンジしており、それでかつ建築としてしっかりと機能性など様々な条件をクリアして世に送り出しているその質の高さ。それを可能とするチームがオフィスの中にあるということは驚くべきことである。

ギリシャ以来、大地に重く根を下ろす重力を制御する建築という宿命に対して、建築の歴史の中で常に追い求められてきた「透過性」や「軽さ」を追い求めてきたSANAAの到達点として、都市ではない自然の広がる広大な敷地において、建物が風景の中に溶け込むようにと透過性と反射性をたくみに制御するガラスとアルミニウムの外装材を使用し、かつ、長い建物の外形線を微妙に曲げることで「直線」という強い人工性を消し去り、人工物でありながらも自然の中に融和するこの場ならではの建築に仕上げていくのはさすがとしか言いようがない。

建物の内部もその周辺にも、その場に行かないと分からないような微妙な手の痕跡が感じられ、その認識が一気に建物の認知のされ方を豹変させてしまう。巨大な建物であるにも関わらず、決して退屈にならず、まさに広大な人工の自然公園のなかを散策しながらアートに向き合うような感覚。

それは床・壁・天井と幾つも複雑な手法をこねくり回すのではなく、しっかりと考え抜かれ、一番効果の高い方法を組み合わせることで、微妙な場の起伏を作り出し、一つの美術館として完結する空間として成立している。

この美術館で採用された個別のディテールや手法などをあげることは可能だろうが、それを並べたところで、最終形としてこの豊かな空間に仕上げることが出来るかと言えば、それはやはり世界で数々の建築と向き合い、その度に目には見えない大きな建築家としての判断を繰り返してきた人のみが成し得る、指揮者としての能力なのだろうと思わずにいれらない。

2012年に世界に生み出されたこの美術館はその構想が生み出されたのはコンペに先立つ2004年頃のはず。その時点から既に10年の時を経た現代に生きる我々は、この建築を見て、そこに込められた建築家の想いを感じ取り、さらにその先にどんな建築の可能性を生み出すことができるのか、真剣に考えて1日を過ごしていかなければと思わされて美術館を後にする。
























































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