今回のヨーロッパ視察のメインの目的地でもあるのが昨年末にオープンしたばかりのこのルイ・ヴィトン・ファンデーション(Louis Vuitton Foundation) 。
パリは東西にそれぞれ大きな森を抱えて発展してきた。西にあるのがブローニュの森、東に広がるのがヴァンセンヌの森。共に中心部から歩いていけない距離ではなく、その為に中心部の喧騒を逃れて自然の恵みを求めてやってくる人もいれば、同時に暗い森で欲望にいそしむという、都市の暗い一面を併せ持ち決して治安が良いとはいえない地域であった。
かつて治安が懸念されたラ・ヴィレット地域に、大規模な文化施設を投入することによって、現代で言うジェントリフィケーション(Gentrification)、つまりはスラム・クリアランスを成し遂げたパリは、その矛先を今度は西のブローニュの森へと向ける。
娼婦たちが徘徊する夜の森に明るいアートを持ち込んで、ルーブル、オルセー、ポンピドゥーと中心地から、東のラ・ヴィレットへと伸びた文化の都市軸を凱旋門を越えて西まで拡張しようという新たなる都市改造。
開館前だというのに、チケット売り場には多くの人が並ぶ姿を見ると、その試みは間違いなく成功したといわざるを得なく、パリに新たなる人の流れを作り出したと言っていいであろう。
このプロジェクト。東京でのザハ・ハディド。パリでのヘルツォーク&ド・ムーロンの様に、現在世界各国で目玉プロジェクトが地元住民の反対運動にあうのはある種の常識になったような感もあるが、その例に漏れることなくこのルイ・ヴィトン・ファンデーションもばっちりと地元住民の反対運動に合い、その調整の為に随分と長い中断時期を経て完成している。
今回の視察は、普段から様々なプロジェクトで協同をさせてもらっている世界的ファサード・エンジニア会社であるRFR Groupがこのプロジェクトのファサード・コンサルタントを担当したということもあり、実際にプロジェクトの担当をした3名の人がわざわざ週末だというのに現地にて詳しい説明をしてくれることになっている。
そんな訳で入り口付近で待ち合わせ、我々三名とRFRの三名で合流し、まずはその特徴的な帆を張った船のような外装をめぐりながら説明を受ける。
様々なところで賞を受賞しているこのプロジェクトだが、なんと言ってもこれだけの複雑な形状を設計から施工まですべてBIMで制御してコストも制作もコントロールしたゲーリー・テクノロジーを筆頭としたBIMシステムへの評価が大きく、逆に言えば最新のテクノロジーとBIMを取り入れなければ、このプロジェクトは成し遂げることができなかったであろう。
また10年という期間はテクノロジーが革新を起こすのに十分な期間でもあり、例えば外装材のガラスパネルのサイズなど、当初の想定から設計過程においてグレードアップしたためにかなりの部分を再設計しなければいけなかったなど教えてもらう。
内部に入ると、建物自体がいくつもの独立した展示室とそれを繋ぐ公共空間で成り立っているのがよく分かり、それぞれの展示室は必ず上からの自然光が降り注ぎ、とても気持ちのよい環境でアートを鑑賞することができる。しかもスペースに一つのアートとなんとも贅沢なスペースの使い方をしている。
複雑に組み合ったボリュームが作り出す段上の構成で、「自分が何階にいるのか?」という認識を持つことなく、様々な場所に隠された展示室を宝探しの様に巡っていく楽しさを与えてくれる。
なんといっても驚くのは展示室の上に設けられた屋上庭園。ここにも多くの屋外彫刻が置かれ、広々とし段差を設けられた様々なテラスからはちょうど周囲に広がるブローニュの森の木々の上の高さに到達し、スポンと視界が広がっている。
その先に見えるのはエッフェル塔であり、ラ・デファンスであり、パリをエッフェル塔の高さではなく、まさに海に浮かぶ帆船の上からの様に、眼下に広がる森の緑の海の上から眺める視点を与えてくれる。
そのゆったりとした美術館体験を可能にするのは、恐らく実際の展示空間よりも遥かに多く設けられた公共空間。無駄を排除し、効率を求める設計では決してできない余裕のなせる豊かな空間。それが「ルイ・ヴィトン」というハイ・ブランドの成せる業でもあるし、また彼らが社会に対して背負う責任でもあるのだろうと想像する。
地階に設けられた、オラファー・エリアソンの黄色く輝く壁でアートと一体になった空間の様に、この美術館の為にコミッションした様々なアートがサイト・スペシフィックな空間と体験を作り出し、ここに戻ってくる意味を作り出す。
複雑な形態を解くために、不条理な部分が取り残されているのではなく、しっかりと細部の設計まで手が行き届いており、テクノロジーと建築の幸福なる融合が成された時代を代表する建築であるのは間違いなく、ここ数年で訪れた建築の中でも上位に位置するものであろうと思いながら、さらにこの先を行かなければ行けないこれからの建築について思いをめぐらせることにする。
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