2015年3月5日木曜日

ゲーツギャラリー(Goetz Collection) ヘルツォーク&ド・ムーロン(Herzog & de Meuron) 1992 ★★★★


今日はミュンヘンを離れ、隣国のオーストリアの都市へと移動する予定だが、午前の予定が思ったより早く済んだためにリストに入れていたもう一つの建築を巡っていくことにする。

ゲーツギャラリー(Goetz Collection) はミュンヘンの市の東北に位置するイングリッシュ・ガーデンの東側に位置する個人経営のギャラリーである。その為に見学には事前予約が必要であり、一般公開されている美術館の様に公開時間もそれほど長くはない。

ガイドの人に予約をしてもらいランチの後にすぐに向かうことに。閑静な住宅街の中、うっかりすれば見過ごしてしまうようなひっそりとした佇まい。中に入ると学生の団体が来ており、高校の屋外学習といった感じである。

設計は今年またしても東京にて高級ブランドのフラッグシップを手がけたスイスを拠点とするヘルツォーク&ド・ムーロン(Herzog & de Meuron)。スイスのバーゼル出身のジャック・ヘルツォーク(Jacques Herzog)とピエール・ド・ムーロン(Pierre de Meuron)の2人を中心とした建築家ユニットであり、現在世界中でプロジェクトを展開するスターキテクトの一人でもある。

1978年から共同設計事務所活動を開始し、その主な作品は

1988年 シュヴィッター集合住宅、バーゼル
1992年 ゲーツ・コレクション近代美術ギャラリー、ミュンヘン
1993年 リコラ・ヨーロッパ社工場・倉庫
1994年 アウフ・デム・ヴォルフの信号所(シグナル・ボックス)、バーゼル
2000年 テート・モダン、ロンドン
1997年 レイマンの住宅
1997年 ドミナス・ワイナリー、ヨンツヴィル、カリフォルニア州
2003年 ラバン・ダンス・センター、ロンドン
2003年 プラダ・ブティック青山店、東京
2004年 フォーラム・ビルディング、バルセロナ
2005年 アリアンツ・アレナ、ミュンヘン
2005年 デ・ヤング記念美術博物館(M. H. de Young Memorial Museum)、サンフランシスコ
2008年 北京国家体育場(通称「鳥の巣」)
2010年 ヴィトラ・ハウス、ヴァイル・アム・ライン

となり、このゲーツギャラリー(Goetz Collection) は比較的初期から中期の作品ということになる。

建物は敷地の奥に所有者の自宅と思われる建物があり、その前に広がる前庭の道路側に自らのコレクションを展示するギャラリーを建設し一般に公開し、そしてできた二つの建物の間の庭に屋外彫刻を展示するというアートを愛する資産家の社会貢献としてつくられた、非常にミニマルな3階建ての建築。

かの様に外からは見えてしまうが、それほど単純な話ではないということはすぐに見えてくる・・・

1階の入り口近くに設置されたエントランスホールに入ると、ギャラリーで今まで行われた展覧会やアーティストの作品集に混じって、やはりヘルツォーク&ド・ムーロンの作品集なども購入することができる。その脇を通って半透明に覆われていた部分の裏に設置されている縦動線である階段を上がっていく。この段階では、なぜ一階のエントランスの後ろの部分にアクセスしないのかは全く疑問に思わない。

2階に上がっていくと、外からは3階建てに見えていたそのボリュームが実は背の階高の高く設定されたギャラリーが二階部分に設定されているために実は2階建てのボリュームであり、外から建物の一番上に見えていたガラスの水平窓は、この2階部分のギャラリーにとってハイサイドライトとなってやわらかな自然光を空間に落としていると理解する。

建築を生業にしている人であれば、この段階で「おおっ」とうなることになる。長方形の展示室は先に進むがどん詰まりの配置になっており、結局先ほどの階段部分まで戻ることになる。その際に、何故か階段が壁面から切り離されてスリットが下まで切られていることに気がつく。

そのスリットを覗いてみると地下にも空間があることに気がつく。そうして1階に戻りさらに地下へと降りていく。すると地下にも展示室が広がっている。先に進むと、先ほど2階で見たのと同じような展示室、つまりハイサイドライトから自然光が優しく落ちてくる空間が広がっているのに気がつく。

そこで受ける衝撃。一階のエントランスの後ろに何故いけないのかではなく、一階のエントランスの後ろは床が無く、背の高い空間の上部としてこの地下の展示室の一部となっていたこと。そして外部から一階部分のガラスファサードだと思っていた後部の壁面は、この地下部分の展示室のハイサイドライトであったということを理解する。

単純な長方形のボリュームにL字型の空間を組み合わせたような感じであり、まさにコルビュジェがユニテにて作り出した新しい共同住宅の形を美術空間として発展させた見事なアイデアである。

「ぐぐぐっ」とうなり声を高めながら先に進むと、2階部分とは違って今度はさらに右に折れる通路が見える。ハイサイドライトからの自然光が途切れ、地下空間らしく暗い闇の空間にスポットライトで照らされる毒々しいアート作品。それをさらに進んでいく。どうやら、地下にも建物からL字でのびるように地下展示が展開されているようであり、恐らくこれは所有者の自宅建物と地下にて通じているのだろうと想像するに難くない。

突き当たりの展示室を見終え、暗い中を戻っていき、種明かしのされた明るい展示室を戻り、これまた1階部分のガラスから取り込まれた自然光がスリットを通って地下まで光を落としているのを見ながら階段を上がる。

そして再度一番最初に見たコーナーを外から見ると、今度はその半透明のガラスの後ろに人の形の影が地下から上がってくるのがうっすらと分かるようになっているのに気がつく。内と外、上と下を見事に自然光と視線、そして人の動きによってつなげ、さらに空間の中にいくつものL字を展開することで豊かな空間体験を作り出した非常に奥深い作品。

外部にまるで杉板コンクリートかの様に仕上げられたグレーの壁面の裏には、木目が分かるような明るい木板で仕上げをしてあったりと、素材による内外のつながりもしっかりと意識されており、小さいが非常に密度の濃い建築であることが見て取れる。

ミュンヘン最後の建築体験がこの上質な建築であったことに感謝をしながら、次のインスブルック(Innsbruck)ではどんな建築を体験できるのかと楽しみにしながら車に乗り込むことにする。





















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