2015年3月6日金曜日

「夜行観覧車」 湊かなえ 2010 ★

ドイツからパリへと向かう飛行機の中で読みきる。
それにしても、いやーな感じの小説である。
登場人物が誰も彼もなんともねちっこい。
まるでそこに自分がいて、その人の台詞を聞かされているような嫌な気分にさせられる。
それだけ臨場感があるということか。

今回の舞台は学校ではなく高級住宅街。そこに住まうプライドを持て余した住民たち。
些細なことで周囲の人を見下して、それによって自分の気持ちを高揚させる。
そんな不安定なプライドの保ち方。

背伸びをして、無理をして、それでやっと手に入れたこの高級住宅街の住民と言うポジション。「品」という言葉で差別化する日本の地域社会のあり方よろしく、新参者は古参者にとってはいい迷惑として標的となる。そんな住宅を囲う塀の様に、家庭の周囲に見えない境界線が存在し、その境界面にて嫉妬や妬みが横行する。程度の差こそあれ、日本全国の住宅街で行われている日常の鏡である。

そんな微妙なバランスの中で成り立つ日常の中で起きた殺人事件。その非日常が契機となって、不安定な各家族、そしてコミュニティは堰を切ったように膿を吐き出していく。

インターネットでどれだけ知りうる、繋がりうる世界が広がろうとも、それでも自ら生きる日常で、自ら接する人々との折衝の中で世間体が世界観が価値観が決定され、そして自らの行動が拘束されていく日本の日常風景。なんとも嫌な気分でページを閉じる。

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