2014年4月13日日曜日

「後悔と真実の色」 貫井徳郎 2010 ★★★

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第23回(2010年) 山本周五郎賞受賞
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札幌で起きていたガスボンベ連続爆破事件。犯行声明まで添付され、札幌北署関連の施設が標的とされているようである。高らかに犯行を宣言し、警察に対しての挑発を行うその姿は、世間を震撼させている。

犯行声明と共に、犯行予告も行い、次なる犯罪の可能性を社会に植え付け、恐怖を蔓延させる。卑劣な手段であるが、間違いなく効果を発揮する。その事件を頭の中で写し合わせながら読むことになるこのミステリー。700ページ近い長編ミステリーではあるが、登場人物の一人ひとりがしっかりとその人物背景まで作りこまれており、最後まで破綻することも無く読みきれる。

王道のクローズド・サークルに乗っ取っている為に、ある程度のところで真犯人は特定できることができるが、それでもこれだけインターネットが日常の中に入り込んできた現代において、ある種の知的犯が自らの犯罪を高尚なる社会的正義だと思い込むことで正当化し、それを世間に知らせようとする行為と、匿名性のネット社会において、そのような犯罪者を讃え、煽る傾向にある2chを代表とするネットの性質を巧く捉えての新しい形の犯罪形式を描きだすこと。

そして、警察官であっても一人の人間であり、それぞれに家族があり、日常のなかで軋轢や嫉妬、出世願望や羨望、刑事として正義感と雇われている身であることの葛藤など、様々な揺れ動く真理を描きだす。

階級による組織内の差別、事件解決よりも組織内での保身、縦割り組織の中で拘束される行動などなど、それを翻弄する「指蒐集家」と名乗り、殺害した女性の指を切り取りその行為をネット上の掲示板で実況すると言う犯人に見事に振り回される警察組織。

最初は誰が主人公か良く分からないほど複雑に多様な人にフォーカスが当てられるが、徐々に主人公としてのスポットライトを当てられていく刑事・西條。スマートで男前で、検挙率は高いが組織内での社交はあまり行わず、それでも自らの警察としての業務には誇りを感じている。

周囲から見れば誰もが羨むはずの彼も、家庭では妻との間は完全に冷え切り、それでも惚れた弱みと説得して結婚までこぎつけた弱みからただただ現状を維持するだけに留まりながら、それでも外で若い記者との不倫を続ける。

そんな彼になんとも表現しようのない嫉妬を抱え続けるのが年上刑事の綿引。こちらは妻に交通事故で先立たれ、その時の怪我の為に車椅子生活となった息子を高齢の母親に世話をしてもらいながら生活をしている現状で、どうしても出世して今の生活を抜け出そうと願うことは、同時に誰かを引き落とすことで自らの地位を手に入れることに繋がっていく。

刑事の職を追われたとたんに、「ただの人」としてかつての同僚からは何も情報も与えられないどころか、けんもほろろに扱われる西条。心のどこかで破綻を望んでいたかのように、堕ちるところまで堕ちた先でも、真犯人への思いは捨てきれない。

そんな愚直な刑事の姿に対比するように、ネット上で「神」になったかのような万能感を感じ、更に積極的な行動と犯行に及ぼうとする真犯人。一度弾けた欲望は、留まるところを知らずに膨張するかのように、もっと自分に注目して欲しい、もっと自分に注目し続けて欲しいと、更に次の、もっと大胆な犯罪へと掻き立てる。

毎月の様に報道される、無差別で人を傷つけようとする事件の様子。「相手は誰でも良かった」という言葉の裏にあるのは、鬱々とし未来になんら希望を持てない自分に、たった一度でもよいから世間からの注目を浴び、自らを認識してもらいたいという欲望に他ならない。

そんな現代における新しい側面を描き出しつつも、しっかりと大きな物語として纏め上げた良作である。


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