2014年3月2日日曜日

建築家としての期待

オフィスには様々な国籍のスタッフが在籍している。それぞれがまったく違うバックグラウンドで建築を学び、何かしらの理由をもってこの北京にやってくる。

その為彼らが思い描く、「国際的建築事務所での生活」というものには個人によってかなり異なることがある。何人もの建築家が応募をしてくるが、理想と現実、思い描いていた時間の過ごし方と、リアリティでは恐らくかなり差があるのだろう。その原因は一つは中国という新しい環境ということ。そしてもう一つはそれぞれの設計事務所での仕事の進め方やスピード感。

そんな訳で3ヶ月の試用期間を経てその内容次第で本契約を結ぶかどうかとなるのだが、中華新年前にオフィスに来た何人かの新しいスタッフが、その試用期間を待たずにオフィスを去っていく。このような事は上記の理由から残念ながらよくあることである。

建築家にとって籍を置くオフィスを探す事は恋人関係と同じく、なかなか簡単にはいかない。ネットや雑誌でそのオフィスの作品を見て、いろいろと調べてみて、住まう国を変える決意を持って応募をし、書類審査、スカイプ面接、そして現地での直接の面接を経て試用へと進むのだから、それなりに大変な労力を要する。

それだけに自分が何をそのオフィスに求めるのかをはっきり理解する必要がある。

ヨーロッパの安定した事務所の様に、決して新しい建築の可能性を追い求めるような面白そうなプロジェクトを手がける訳ではなく、高いレベルの労働環境が守られ、建築士としての技能を高める事ができる高齢の上司達がいるようなオフィスでは、比較的早い時間から、しっかりと定時まで働き、その時間内でできることをベースにプロジェクトのスケジュールが組まれていく。仕事の後には友人達と食事に集まったり、美術館に足を運んだりとする時間だって得られるであろう。

日本の住宅作品をメインで行う小規模のアトリエ事務所では、大学を卒業したてて設計が出来ると思っていたが、それは建築という実務の中ではまったく無知に等しい事を知りながら、先輩について住宅を設計していく中で、どう建築が出来上がっていくのかを学びながら、デザインが、法規、構造、機能、設備、クライアントの要望、予算などという様々な条件の中でもまれながら、バランスを取りながら進められるものだと学んでいく。

木造、コンクリート造、鉄骨造などそれぞれに異なる造り方をする構造形式の建物を数年間の中で経験する事ができれば大変ラッキーな事で、徐々に建築ができるルートを理解し、そこから自分で始めから設計を進めることを学んでいく。そんな時代にはもちろん事務所の戦力としてなることができることは難しく、それよりも事務所として将来への投資としてなんとか給与を払ってもらえても、それでもなかなか世間一般の社会での給与体系には遥かに及ばない。

それでも「今は自分の職業的能力を向上し、半人前でも建築士として仕事ができるようにならなければ」と膨大に覚えることのある建築設計の実務を覚えていくことになる。

異なった環境、異なった条件で自分の中の要望に優先順位をつけていかなければいけない。思い描く全てを手に入れたいと願うのであれば、相当に高い能力を要していて、そしてそれを与える準備が出来ているオフィスに応募しなければいけない。

給与、
条件、
労働環境、
プロジェクトに与えられる時間、
関わるプロジェクトの内容、
自らの職業的能力のレベル、
住まう都市環境、
同僚、
上司、
仕事の進め方、
仕事の中で学べる内容、
自分の力を発揮できる環境かどうか、

などなど、様々な事が仕事をする中に含まれる。その中で求める事の順位をはっきりし、それにそって応募する建築事務所を選んでいく。そして恋愛同様、相手側にも相手側の条件と優先事項があり、それがうまくマッチしない場合には、その関係はおのずと長くは続かない。

常に自らの職業的能力のレベルを把握し、その建築事務所が行っているプロジェクトに必要とされる建築家としての資質を理解し、その距離感、自分に何が足り、何が足りてないのかを自覚的に毎日を謙虚に過ごしながら、少しでも早くそのギャップを埋めること。どうすれば一番早くそのギャップを埋めることが出来るかを考えて時間を過ごすこと。

それはプロジェクトの為でも、オフィスの為でもなく、建築家としての自分の為であるということを理解してすごす事が必要だと思わずにいられない。そんな建築家としての期待を考えながら、自分にとって今期待する事は何かを再度振り返りながら仕事に戻ることにする。

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