2014年3月7日金曜日

「横道世之介」沖田修一 2012 ★★★★

iPadで見ていると、横から妻が覗いてくる。
「今度は何見ているの?」と。

映像を停止し、ざっくり話を伝えてあげる。我々が大学に通ったのと同時代的な雰囲気と、登場人物の設定が魅力的なことを伝えると、

「面白そうじゃない。なんで見始める時に誘ってくれないの。すぐにそうして自分だけの世界に閉じこもるんだから」と何やらご機嫌斜め。「家にいるときくらいは私の相手をしろ」ということらしい。

「まだ始まったばかりだから一緒に見る?」と聞いても、「もういい」ということらしい。「最初に誘ったんだけどな・・・」と思いながら、しょうがないので続きから見ることにする。

春を迎えると、大学が集まる東京の街は「新」がつく人がごったがえす。その中の新入生。地元を離れ始めて一人暮らしをして、大都会の東京での新しい大学生活に胸を含ませ、どんな出会いがあるのだろう、どんな楽しい生活が始まるのだろうとドキドキしながら、着慣れないスーツに身を包み大学の門をくぐる。

そこには様々なサークルの勧誘とチラシ。なんだか分からないが物凄く歓迎してくれるし、なんだかどこも楽しげである。そして参加する新歓コンパ。こんな風に楽しくお酒を飲んで、こんなに多くの人が集まっているんだと、改めて大学の、そして東京の凄さに驚くことになる。

毎日毎日が新鮮で、毎日が可能性に満ちている大学一年生の4月。幾つものサークルを比較し、その度々に重宝される、そんな日々。その中でいろんな友達や異性にも出会い、その後の4年間の大学生活の基礎となる人間関係を構築していく。そしてその4年間というのは、その後の人生の基礎でもあるということは、この時期にはなかなか気がつかないものである。

原作者の吉田修一は1968年生まれ。長崎出身で大学は法政大学に通っているので、ほとんど自身の私小説ということになる。

そんなとにかく楽しかったあの時代の雰囲気をもたらしてくれるこの映画。田舎から出てきたなんてことはないが明るく無邪気な主人公。気さくで威張ったり、誰かをけなしたりもせず、とにかく強い印象は残さないが、のちのちふと、「そういやあんなやついたな。あいつに会えてよかったな」と思い出すような人間。

不思議なもので、あれだけ集中的に時間を共に過ごした大学時代にもかかわらず、そのほとんどが社会人になると滅多に顔を合わせることなく、互いの人生にとって重要な役割を果たすことなく過ごしていく。まるでかつての恋人ほどではないにせよ徐々にその距離は徐々に離れていく。

どんなに日本の大学の質が落ちたといわれようとも、やはりこうして地方から東京に向かい、様々な人間関係の中で少しずつ大人になっていく時間と言うのは、一見無駄にも見えるが、その実大きな意味を持っているのだと改めて自分の過ごした時間を振り返ることをさせてくれる大変素晴らしい作品である。
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スタッフ
監督 沖田修一
原作 吉田修一
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キャスト
高良健吾 横道世之介
吉高由里子 与謝野祥子
池松壮亮 倉持一平
伊藤歩 片瀬千春
綾野剛 加藤雄介
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作品データ
製作年 2012年
製作国 日本
配給 ショウゲート
上映時間 160分
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