2013年11月3日日曜日

「「都市縮小」の時代」 矢作弘 角川oneテーマ21 2009 ★


石油埋蔵量がピークを打ち、いつ地球の油田の底が見えるのかとビクビクしながらも、エネルギー転換に舵を切れないのは、石油エネルギーを前提に現行の市場経済が制度設計されており、その前提が崩れると大きな利権を失う人たちがあまりにも巨大な力を持ちすぎているために、新しい時代へと舵を切るのを堰きとめるような圧力となっている。

どこの世界でも、どんな時代でも、社会の前提が崩れるときは、現行制度で利権を持ちえる組織や人々が大きな抵抗勢力となり、社会的に見たら一刻も早く問題解決のために新しい前提を構築していく必要があるにも関わらず、個人や組織の利益を守るために社会や国というものがないがしろにされる。

そうした誰が利権を持っているかがはっきりする分野では話が早い。

国の人口増加がピークを打って、緩やかに減少に向かっていく。国という制度設計の多くが人口が増えることを前提に作られている中で、誰もがこのままではこの国が成り立たないと少し考えれば分かるにも関わらず、硬直したシステムから享受するものが多い人や、「自分の任期、自分が現役でいる間だけはなんとかこのまま行ってくれ・・・」という、ささいなエゴを心に抱えて日常を生きる人々の総体と、変化を望まない大きな力に助けられ、問題が放置され続けているこの数年。

日本の人口

建築は人がいて、経済活動があり、新しい家族を作り、そんな何かが始まるときに必要とされるものであり、その時に初めて設計活動が必要となる。ただでさえ、経済が停滞し、建築という巨額の投資となる行為が気軽に行えなくなってきた21世紀においては、ひたすらに少なくなるパイを多くの建築家が取り合うという事態になっている。

それに加えて今度は人口が減っていく。そうすると「建築設計」という行為を生業として生きていく建築家という存在自体が、今後の時代にかなり危うい存在になることは間違いない。それにも関わらず、毎年同じ数の建築学科へ入学し卒業する学生の数は変わらず、プラス国民年金だけという老後を送ることになる自営業の老年建築士にとって退職して悠々自適な老後という言葉は存在せず、動ける間は働き続けることになる。つまり上は減らずに、下からどんどん増えてくる建築家。それに対して仕事の数はどんどん減っていく。

そういうことを考えたら、建築学科も募集人数を大幅に減らすか、隔年ごとに募集をかけるなどの処置が必要になると思われるが、こうしてしまうと今度は教師たちをどうする?という問題になり、とりあえず社会の問題はおいといて、安定した職をある一定の人の間で確保できるようにしておきましょうとなってしまう。建築学科をでても、建築家にみんながなるわけではないので、まぁいいじゃないか、という訳か。

まぁとにもかくにも、人口が減る日本というのは現在進行形の事象であり、それを縮小社会、シュリンキングなどと呼び方は変われど、自らの職能の存続に直接に関わりがありかつ、近い将来に訪れる地方都市における悲惨な状況において専門家として仕事を確保するための布石かの様にという訳でもないだろうが、やはり建築家にとって社会や都市というのは魅力的な扱う対象物であり、純粋にそれらの前提が変わり、新しい状況が現れるときにどのような設計ができるのか?を考えることは職能を刺激するトピックでもある。

そんな訳で何年も前から今後人口が減少する社会、都市、国においては、どのような都市空間が必要となり、どのような建築的設計が要求され、既存の社会インフラをどのように更新し、ストックを浪費せずに、かつ姥捨て山社会をつくりださずに、どうやって新しい社会へと移行していけるか?そんな言説を発する建築家が物凄く多くなってきている。

もちろんこの問題は、建築だけではなく、日本が本気に向き合うべき大きな問題であり、結局無駄を垂れ流しながらも税金を注入し続け、実質破綻の市町村は高位の自治体が面倒を見ながらなんとか先延ばしにしていこうということはもう通用しないと誰もがわかっている問題である。

そんな人口減少の時代。縮小するのは国だけでなく、都市もそうであり、人が減ることになった都市がどのような状況を迎えるのか?その前例を世界中から拾っては紹介する一冊である。

世界中を周っていれば、いやが上でも目にすることになる都市の歴史。港湾都市だったコペンハーゲンが物流の主流の転換によって廃れ、荒廃した湾岸エリアをどのように生き返らせたか?こんなことは長い歴史の中で何度も何度も行われていることであり、ロンドンしかり、大航海時代から現代に至るまで、何度も産業と経済に翻弄しながらもなんとか自らを適応させて生き延びてきた。

その街が生き延びていくためには、物凄いエネルギーが必要になる。それは行政関係者はもちろんのこと、その土地に住まう人々が、新しい社会に適応すべく、自らを変えていくという意志がエンジンとなって変革を進めていく。

しかし、今回迎えるのは「人口の減少」という未曾有の事態。それは各自治体が競争に負けて廃れていくという今までにも起こったことを下敷きにはしているが、グローバル社会と世界的交通網の整備が完成された現代においては、自由主義経済によって人がよりよい機会、より良い環境を求めて移動していく。誰もそれを止められない。そうなった時に、縮小する都市の数は加速度的に増加する。

今までの人類の歴史においては、この移動距離にリミットがかかっていたことと、その移動速度が限られていたこと。また他の場所での情報が限られているなど、ある程度生まれた場所に人々をとどめておくための条件が整っていた。それがフラットにされてしまった現代。そこにやってくる人口減少。この二つが相絡まりあいながら作り出すのが縮小都市の群れ。

デトロイト、セントルイス、ライプチヒ、福井、長崎・・・

縮小し、そのことを受け入れ「賢く小さくなる」ことを掲げながらも生き延びようとする都市もあれば、いまだに旧態依然の大きくなることへの欲望を捨てられずにいる都市もあるが、家族との繋がりが薄くなり、土地への吸着力が弱まり、どこにいっても軽く生活を始められる現代の世代の到来がその後ろに大きく背景として横たわる。

かつてなら、大学進学や裕福な家庭出身とうい限られた人間だけに与えられた「移動する特権」が全ての人間に与えられている現代。それがまるで非正規雇用が増えるように、短期的な幸福を求めて人が流入する都市。そして流出していく都市。

この都市で生活することは私が求める幸福に対してある程度の満足を与えてくれるから、私はこの場所に居を構えます。ただし、もっと良い条件を与えてくれる場所があれば、すぐに出て行きますのでよろしく。

と言わんばかりに軽く住まう現代人。それでも、まるでフワフワと漂うようでも、ある種の魅力を抱え、人を呼び寄せる都市とそうでない都市とに二分化していく。都市の勝ち組と負け組。

世界中と日本の縮小都市の例をあげ、一般解と特殊解。マクロとミクロの政策を紹介しているが、はっきり言ってこの問題に万能な対処法は無いのだろうと思わずにいられない。それと同時に、長い長い地球の歴史から眺めてみれば、都市が縮小し、都市生活が危機に陥ることは、おそらくひどく一般的なことなんだろうと思わずにいられない。

戦国時代に栄華を誇ってきた都市が、今でも同じように社会の中心として存在しているのは極めて稀で、勝者の場として限られた都市だけに許された特権であろう。歴史でよく語られる街が、今はビックリするくらいの小さな街として存続していることも多々ある。

環境変化に適応できなかった生物が自然に淘汰されていくように、都市も同じように厳しい競争に晒されている。生命の存続に公平な競争なんて内容に、都市間での競争にも始めから不公平が付きまとう。それが地理、規模、行政の優劣、地場産業の有無など。それでも必要なのはその場所が次の世代の日本にとって本当に残っていくべき場所であるかどうか?その場に住まう人たちが真剣にそれを望むかどうか?が恐らく近い将来、我々世代とその子供世代が真剣に向き合っていく課題になっていくのだろうと思わずにいられない一冊。

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目次
第1章 世界の町が小さくなっている
・21世紀、縮小都市がメジャーになる
・なぜ、縮小するのか
・縮小都市はは悲惨か?
・「賢く小さくなる」制作研究
・国土計画と縮小都市

第2章 夢から覚めたアメリカの街
・「頭脳」がアメリカの都市を救う
・アメリカ南部の揺り戻し

/ウアングスタウン
・空き家に死体が転がっている
・スマートに衰退する法
・縮小は敗北ではない!
・都市を持続させるために

/デトロイト
・超高層ビル群の廃墟
・社会変革を目指す都市農業運動
・カジノは都市を再生しない

/クリーブランド
・アヴァンギャルドは倉庫暮らし
・蘇る文化遺産と「倉庫地区」
・工業デザインで「中西部のミラノ」を目指す
・デザイン力がまちを救う

/セントルイス
・都心、賑わいを取り戻す
・「ダウンタウンで食事をしましょう」運動
・官民のパートナーシップ
・アートがまちを救う

/バッファロー
・往時の賑わいを回復することは不可能
・悪循環からの脱却
・メディカルコンプレックスがまちを救う
・楽観論ばかりではない

第3章 絶望からはい上がるドイツの町
・ヨーロッパの縮小都市事情は複雑

/ドレスデン
・倦怠と希望の斑模様
・パンクとバブルと荒廃が混在
・変貌する中央駅前
・市場経済化の勝ち組風景

/ライプチヒ
・プラス/マイナス相半ば
・ライプチヒは勝ち組なのか?
・不動産の需要と供給がま逆
・まちに「孔」をあける

/ライネフェルデ
・農村風景の中に出現する工業都市
・縮小都市のパイオニア
・集合住宅を縦横無尽に改造

/フランクフルト(オーデル)
・国境の町の失望
・非現実的な夢
・宮東ドイツ時代に比べ家賃は3-5倍に
・団地住民の戸惑い

/デッサウ
・廃墟に魅せられて

第4章 復活を遂げる日本の地方都市
・日本の縮小都市
/福井
・性懲りなき郊外開発が今、重荷に、
・郊外区画整理に喘ぐ
・土地浪費、車依存の土地利用
・コンパクトシティ福井づくり

/釜石
・高炉の火が消えても
・「釜石の希望」を共有しあう
・次々変わる「総合計画」

/飯塚
・旧炭鉱町がITに賭ける
・「助け合いネットワーク」が機能する

/長崎
・「斜面地都市」長崎の衰退
・斜面地をいかに暮らしやすくするか
・コミュニティ再生の「長崎モデル」

/泉北
・「限界集落化」するニュータウン
・老朽化が泉北離れを加速させる
・建て替えとリニューアル

あとがき
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