2013年8月31日土曜日

「神道とは何か―自然の霊性を感じて生きる」 鎌田東二 2000 ★★


ここ数年、とにかく日本の古いものが気になってしょうがない。寺もいいがやはりなんといっても神社。そして神道。

現代の様にちみちみ切り分けられた土地になんとか法規一杯にボリュームを建てて建築を競う日常と比べると、何十年と時間をかけ、自然の力が湧き出るような場所を探し出し、そこで一番良い配置計画を考える。寺の様に建物が主役となるのではなく、あくまでもその場の空気、自然の持っている力を一番感じれるようにするのが神道の建物の役割。いわば、人間と自然を繋げるデバイス。

古代から世界が小さかった原始の人間。彼らが目にした自然の驚異の風景。そこに畏敬の念を感じ、当然の様に繋がっていく自然信仰。巨石、滝、洞窟、大きな樹木。自分が生まれ死ぬ時間をはるかに超えた時間を生きている自然。その場を自分達が一時だけ借りて住まわせてもらう。そのリスペクト。

そして仲間内からとりわけ、感覚が鋭いものが出てきて、どうやって参道を配置し、どうやって建物を配置したら一番自然の力を感じやすく、受け取りやすいかを考える。その自然の力に八百万の神(やおよろずの かみ)の姿を見るようになっていく。

という原始の信仰の開始の形はおぼろげながらに想像できる。それだけ多種多様の自然が生息する豊かなる日本列島。

そしてその感覚を理解する為に、様々な場所で長きに渡って地元を見守りつけてきた神社空間、神域を巡るようにしている。多く回るほどに、神道の大よそのフレームは見えはじめ、「ここはいいなぁ・・・」なんていう空間性も肌で感じるようになってくるのだが、そうなるとより体型立てて理解したくなるのが人の常。

百万の神(やおよろずの かみ)がどうやって日本書紀に出てくる神話の世界とつながり、どういう経緯を経て社殿が建てられ、鳥居が作られ、参道が整備され、伊勢神宮、出雲大社、そして全国に散らばる様々な神社の体型が整えられたのか?そして天皇家とつながり。そこへ仏教が入ってきて、体系だった仏教の世界との距離感。それに対して古来の神道をどう位置づけていくか、神仏習合、神神習合のプロセスから近代神道への移行。

そんな基本的なところを知るのに良さそうだと手にしたこの一冊。現役の神主であり、宗教学者である著者が、高校生の息子に神道を分かってもらうようにと書いた入門書というので、自分のレベルにも合うはずと読み進める。

神道とは教えではなく道。他の宗教の様に教祖がいて、絶対的な教えがあるのではなく、ただただ神の道と神への道。その大らかな構えはどんなものにも融合し、最終的には吸収して一部としてしまう懐の大きさ。そして神道は「センス・オブ・ワンダー」を感じることだとする。自然の力を感じる事、すなわち神道。

部分的になるほどと思えるところは多いのだが、どうも期待していた体系だった神道が理解できる一冊ではないようである。というのも、神道というのはもともと明確な輪郭を持ったものではなく、いつも境界線が曖昧にぼやけているような、つかみどころの無いものなのだからかもしれないと本を閉じた後に思う様な一冊である。

-------------------------------------------------------
目次
プロローグ
・尾万里にはどのような意味があるのか
・お守りの心理医学的効果
・処女の陰毛は受験合格のお守りか
・形見に託された思い
・厄年の根源的意味

第1章 神道の環太平洋ネットワーク;
1 遺伝子に内蔵された神道精神
・名状し難い望郷の念
・「奥」である沖こそ先祖のふるさと
・阿波踊りのリズムとバリ島の祭礼
・伝承的宗教の考察法
2 環太平洋文化と神道
・法螺文化とふんどし文化
・神社は資源・経験のストック
・災害も一つの創造力
・大地のコスモロジーこそ「神ウェイ」

3 近代文明の思考法との対立
・神中心主義から人間中心主義への転換
・自然中心主義は人類の遺産

第2章 日常に宿る神道;
1 外国人が感じる自然の神
・進化論的視点から見た文化的偏見
・ハーンの西洋中心主義を逸脱した心
・ハーンはなぜ神道精神を理解したか
・詩的理解こそ神道の真髄
・「となりのトトロ」の童女メイ
・自然の霊性に通じ合う

2 日常生活に浸透は生きているか
・「この空気そのものの中にいる何か」
・「台風銀座」で感じたグレート・スピリット
・「祭り」の持つ4つの意味
・「祭りの無い神道はない」
・「ハハハ」は感謝の思い
・ディープエコロジーとつながる祭りの精神
・習俗の中に見る姓名に対する畏怖

第3章 神と仏はなぜ習合したか―神道の原像と展開;
1 縄文以前から神道はあったか
・「神道」が始めて分権に出てきたのはいつか
・「縄文」土器の語源
・神道の期限は弥生時代ではない
・渦巻きは生命の循環と再生の象徴
・貝塚も単なるゴミ捨て場ではなかった

2 神神習合の段階
・日本は習合文化の国
・二つの稲作起源神話
・八百万の神は天孫降臨神話以前から やおよろず
・仏教導入は文明開化のため
・聖徳太子のシャーマン的能力
・中国と日本の律令制の決定的違い

3 神仏習合に向かう萌芽 ほうが
・神木から作られた日本最初の仏像
・神仏習合は神神習合の一ブランド

4 吉田神道の登場
・本地垂迹思想と反本地垂迹思想 (ほんじすいじゃく)
・伊勢神道の思想運動
・」神道五部書」お外宮神学
・唯一宗源神道としての吉田神道
・「加茂川の水がしょっぱくなる」
・兼倶はなぜ大嘘ともいえる芝居をうったか

5 江戸時代における神道を取り巻く思想
・戦国武将が神として祭られる理由
・日本の習合思想は「着せ替え人形」
・鈴木大拙の日本的霊性論
・中背新仏教の始祖たちの神道的感覚

第4章 神仏分離令と民衆宗教―近現代の神道;
1 ディープエコロジーへの道
・本居信長の「古事記」崇拝
・お化けの研究が明かす日本の神々
・神仏分離令がもたらした負債
・神道と仏教のあり方を問う景気に
・人者神道は宗教家?
・「エコロジー」を最初に使った南方熊楠

2 明治民衆宗教の功罪
・現人神は天皇だけを現していなかった
・明治官僚が感じた民衆宗教の脅威
・天照大御神との一体化
・大本教の世直し運動
・オウム真理教事件につながる棚上げされた問題
・隠された神の復活
・教の「自分探し」に直結する神観革命



第5章 神道を日常生活にいかす;
1 伝承文化の見直し
・「あらたま」は新しく蘇った魂
・年の魂が象徴化された餅
・命を表す二つの枕詞
・文化的八百万主義

2 センス・オブ・ワンダー -自然との接し方
・古語には無い「自然」という言葉
・シシガミに宿る自然感覚
・生命中心主義が共生の思想を生む
・共生を超えた属生・拠生
・「センス・オブ・ワンダー」を取り戻せ

3 神道と詩的芸術的完成
・芸術こそが宗教の母
・芸術家は一種のシャーマン
・「センス・オブ・ワンダー」の息づく短歌
・「気」のレベルでの食べ物 
・創造性に満ちた生活のために
・「センス・オブ・ワンダー」に最も近い子供の歓声
・感覚の解放こそ芸術の根源
・真のつりあいとしての祭り


第6章 これからの神道
1 神仏集合論の再発見
・日本の文化はハイブリッド文化
・神は在るもの、仏は成るもの
・神は来るもの、仏は往くもの
・神は立つもの、仏は座るもの

2 祭りの再発見と新しい祭りの創造
・祈りは個人の行為、祭りは共同体の紐帯 ちゅうたい
・振興的精神の復活
・ボランティア活動としての奉納
・世界各国の神々との結合
・阪神淡路大震災の教訓
・友愛の共同体を築くために

神道とは何か - あとがににかえて
・おめでたい人ではなくありがたい人
・宇宙は何でもあり
・自然崇拝こそ神道
-------------------------------------------------------

0 件のコメント:

コメントを投稿