2021年9月29日水曜日

Number 11/ House No 11 ナンバー11_Geoffrey Bawa ジェフリー・バワ_ 1960 ★★★★

 


Geoffrey Bawa ジェフリー・バワ

都市に一つ。
自然の中にまた一つ。
 
そんな風に二つの自宅を持ちながら、仕事と理想とのバランスをとることができることは、すべての人にとって一番の贅沢であるだろう。平日は都市の自宅で社会と関りを持ち仕事に励み、週末は自然豊かな場所の自宅で、趣味や自然に囲まれて時間を過ごす。必然的に二つの性格の異なる自宅に求められる空間性や、置かれる家具やモノたちの趣向も分かれくるだろう。時間を長く過ごすうちに、それぞれの自宅も手を入れながら、徐々に成長していく。
 
そんな風に長い年月をかけて特色ある二つの自邸を作り上げていったのが、スリランカの建築家ジェフリー・バワ(Geoffrey Bawa)。都市であるコロンボに作られたのが、事務所兼として平日を過ごしたナンバー11(Number 11/ House No 11)。そして、週末ごとに愛車を飛ばして向かったのがスリランカ南部に位置するルヌガンガ(Lunuganga)。その二つの自邸を観ることで、バワが都市に、そして自分の理想に、どんな空間を求めていたのかが徐々に見えてくる。二つ同時にあることで、初めて一つの人生になり、バランスをとることができる。
 
都市化のなれの果てとなった現代において、都市の住まうことの希望がほとほと薄くなってきた状況下において、都市か都市以外かが議論されるなか、半世紀以上も前にすでに二拠点生活を実践していたバワの自邸を改めて詳しく観てみる。
 
空間の構成は以前まとめたので、拡張を繰り返し徐々に広がっていった空間の中で、キーとなる場所における、外部との関係、中庭や天窓から入り込む光や降り注ぐ雨、風と共に入り込む外の音などがどのような関係性になっているのか。そしてそれらの場所からの眺望がどのよううに設定されていたのかに注目して、スケッチをしてみることにする。
 
そうすると、キーとなる場所には必ず中庭が隣接し、上からか横からか、日の光を取り入れることで一日の移ろいを感じることができるようにしている。そして水の使い方も、水盤に水を落とすことで絶妙な音を起こしたり、反射によって光を奥まで届けたり、壺にいれてみたりと、これも場所によって様々な水との出会いをつくりだす。
 
植栽も、根が露出するような大きな木から、数本の竹であったりと様々な種類の植栽を利用して、すべての中庭が独特の表情を持つように設計されている。
 
そして内部空間も、その天井高が場所の性格とプロポーションによって変えられていたり、壁一面のタペストリーが掛けられたりと、拡張によって通常の住宅に比べ非常に複雑で、一見何のための空間か分かりにくい場所が多く存在しているのであるが、そのすべてが特色ある空間になっており、かつ一日のなかで少しでも腰かけて日の光の変化を楽しむような心地よい場所になっている。これは機能で空間を分けてしまいがちな現代の建築から見ると、非常に高度な空間の作り方であり、バワが長い時間をかけてここで過ごしたことによって始めてできえた空間であり、その為にこの住宅が多くの建築家の心を打つ理由でもあろう。
 
そしてそのキーとなる空間には、独特のディテールやバワの愛したアーティストの作品などが散りばめられ、その空間一つづつが十分な強度を持つ建築空間となっている。これだけの濃度を持つ設計ができるのもまた生活の中で徐々に密度を高めていった結果であろう。
 
二つの自邸とその間の移動を繋ぐ愛車。バワが繰り返した二つの点の間の移動は、共に目的地であったそれぞれの自邸で過ごす時間での喜びに満ち溢れた時間であったのだろうと想像する。


3階テラス
2階リビングのデスク


2階リビング

1階入り口脇の通路

ダイニング脇の中庭






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