2017年6月18日日曜日

Idea Store(Whitechapel) デイビット・アジャイ(David Adjaye) 2005 ★★



現在の建築業界において最も注目を浴びる建築家といえば、必ず名前が挙がるのがデイビット・アジャイ(David Adjaye)。

1966年生まれ、タンザニア出身のアジェイは外交官の父の影響で、様々な場所で幼少期を過ごし、9歳の時にイギリスへと移住する。ロンドンのサウスバンク大学で学位を、そしてロイヤル・カレッジ・オブ・アート (Royal College of Art)で修士を取得し、卒業後AAスクールでユニット・マスターを務めながら、すぐに自らの設計事務所をロンドン東部で設立する。

その後ロンドン東部を中心に小さな住宅などの作品を手がけながら、徐々に世界へと活躍の場を広げ、ついに2016年にはワシントンDCに国立アフリカン・アメリカン歴史文化博物館(Smithsonian National Museum of African American History and Culture)を完成させ、イギリスにおいては、Sirの称号まで手にした多中心でグローバル化した世界を代表する建築家である。

2002 Dirty House, London,
2005 Idea Store(Whitechapel), London,
2007 Stephen Lawrence Centre, London, 
2007 Sunken House, London,
2010 Museum of Contemporary Art in Denver
2010 Nobel Peace Centre in Oslo
2010 Skolkovo Moscow School of Management
2012 Francis Gregory Library, Washington DC, 
2013-2015 Washington Collection for Knoll, 
2015 Sugar Hill Housing, New York, 
2015 Double Zero for Moroso,
2015 Temporary Museum for Venice Art Biennale 2015
2016 Smithsonian National Museum of African American History and Culture, Washington DC, 

その初期における重要なプロジェクトにあたるのがこの, Idea Store(Whitechapel)。これは最近のロンドンだけでなく、世界中におけるプロジェクト同様に、その社会的背景を理解しなければ、その作品の意味や重要性がなかなか理解できないプロジェクトであり、またアジャイにとって個人のクライアントから社会性をもった地域の為の作品を手がけ始めるきっかけともいえる作品である。

まず始めに、ロンドンにおけるホワイトチャペル(Whitechapel)に代表される「東」地区の意味。

自分がAAスクールに通う今から20年近く前においてはそれはそれはできれば近寄りたくないエリアの代表格といったところ。更に東に向かえば治安の悪さではピカイチだったハックニー(Hackney)が控えており、東は比較的家賃も低いということもあり、様々な国からの移民が多く住まうことでも有名で、街を歩いていてもモスクを見かけたり、中東系のスーパーが軒を並べていたりと、異国情緒の感じられる場所でもある。

次にIdea Storeのコンセプト。地域の行政が図書館の利用者の減少にどうにかして歯止めをかけようと、本を借りるというだけではない、より多様な地域活動の中心となるような場所をコミュニティのために作り出せないかということで、様々な調査を踏まえて、カフェがあったり無料で使えるインターネットに接続したパソコンが利用できたり、ダンス教室やスポーツが楽しめる空間があったりと、幅の広い年代層が訪れるような次代のニーズにあったコミュニティセンターとして、地域から様々なアイデアが生まれるようにと始めたもの。

しかも、買い物のついでに立ち寄れるような立地を選択し、そこに併設するスーパーから出資金を募るという地域経済をも巻き込むプラン。今回の場合は、隣接する大手スーパーのセインズベリーズ(Sainsbury's)に建設資金を一部出資してもらったという。

移民が多く住まう地域に、多様性を許容する今までに無かったタイプの公共施設。そんな設計に白羽の矢が立ったのは、アフリカ出身で、イギリスで教育を受け、東ロンドンを設計活動の拠点としているデイビット・アジャイという訳である。

そんな訳で、もちろんプロジェクトは相当な低予算。しかし、地域住民が気軽に足を運べ、家では持っていないパソコンなどを使って様々な調べモノをし好奇心を養い、本やDVDを借りられたりと、家庭環境に恵まれない子供たちにとっては素晴らしい環境を提供する場となっている。

平面形や使われる素材も非常にシンプルなものであるが、それでもここがコミュニティの場であること、ここに来ることが楽しいことであるというメッセージを伝えるかのように、ファサードにはカラフルなシートが貼られたガラスが使われ、室内に気持ちの良い光を届けていたりと、建築がプログラムを活性化するようにと様々な気配りがされている。

このようなプロジェクトはその都市のおかれた社会的状況、更に細かくズームして地域のおかれた問題を、長期的/短期的にみて、それを深く理解し、長い目で地域にとって本当に意味のあるものを作るような試みである。それこそ雑誌やインターネットで何枚かの写真と図面を見るだけでは決して、その意味と建築の良さは理解することができない。

このようなトレンドは、ここ数年のAAスクールの学生のプロジェクトなどにも色濃く反映されており、社会問題を浮き彫りにし、個別具体的に対応するような建築の回答であればあるほど、その社会問題を深く理解していないとクリティックのしようもなく、平面の配置の問題や、デザインのあり方とはまた別の次元で触れていかなければいけない建築である。

その点デイビット・アジャイがその背景から多様性とマイノリティの言葉を代弁する建築家として脚光を浴び、現在のポジションまで上り詰めるための第一歩として重要な意味を持つこのプロジェクトを、ロンドンに住み、この都市の抱える問題を深く理解する建築家の友人の説明を受けながら見学することが出来たのは、非常にありがたく、またこうしたプロジェクトの意味を少しでも日本語でも紹介していくことが、その意義を広げていくことに繋がるのだろうと思わずにいられない。

















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