2016年2月3日水曜日

「子どものまま中年化する若者たち 根拠なき万能感とあきらめの心理」 鍋田恭孝 2015 ★★


鍋田恭孝

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子供の頃思っていた、「大人になったらどうなっているんだろう?」という問い。漠然と、大人になるということは、いろいろなことができるようになり、知識も増え、様々な責任も受けながら、忍耐強く、自分のことは我慢してでも家族を優先し、社会の中で立派な人間として認められる。そんな漠然としたイメージを持っていた。

その時想定していた「大人の年齢」をはるかに超える歳になっているにも拘らず、当時の想定からは大きく離れた未熟なままであるが、それでもなんとかそのギャップを埋めようと意識は持つようにしている。

しかし、どうも世の中ニュースなどを見ていると、そうでもない人が多いようである。電車の中で周囲の人が見てようがお構いなしでマンガ雑誌を見入ったり、携帯でゲームにふける。そんな「公と私」の境目が曖昧なままに都市の中に垂れ流されている人々や、自らの欲求を理性によって押さえるなどして適正に制御しきれないまま周囲に撒き散らす人々の様子は、ニュースや書籍でいくらでも目にすることができる。

そんな明らかに「大人としての自覚」をもって「成長しなければいけない」という思いと焦りを持って日常を過ごすのではなく、刹那的に今の快楽を求め、短期的に生きている人たちが増えているのは間違いないであろう。それが若者に限ったことではなく、中高年と呼ばれる「いい大人世代」の中にも、いまだにそのような人がいる。

ひょっとしてどの時代もそんなもので、大人としての適正がないままに成長している人というのはある程度の割合いたのかも知れないが、それでも自己中心的な振る舞いで、小さい子がおもちゃ売り場で駄々を捏ねている様を見ているようないい大人の見苦しい振る舞いが日常のあちこちで見受けられる、そんな時代になってきている。

その変化がいったいどこから来ているのか?社会のどのような変化がその子供のまま大人になる人々を増加させているのか?それを少しでも知り、できるだけそこから距離を取るために手にした一冊。


以下本文より、
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/何もかもあるのに何もない世界
何もかもあふれるほどにそろっているのに、手ごたえのあるもの、信ずるもの、理想や希望、守るべき規範などが失われた世界

/子供のまま中年化する若者たち
いつまでも親離れせず、遊び気分を抱き、ファンタジーの世界を好み、未熟な自己中心性を抱き、友達からの承認を求め続けるなど、子供のままの生き方をする。その一方でリスクを避け、今の生活レベルを守り、家族だけを大切にし、上から言われたことには反抗せず、与えられて狭い世界に順応し、ワクワクすることよりも、ゆったりできることを望み、何よりも居心地の良さを大切にする。

第1章 いま若い世代に起きていること
/買い物に行っても選べない、選びたくない
心地よい刺激に対しても、量が多すぎると反応しなくなる
幼児が喜ぶあやす行為をすると、途中までは喜ぶが、ある一定の頻度を超えると反応しなくなる

/思い付き・遊び感覚の犯罪の増加 
代わって増えたのが、「いきなり型」「暴発型」の犯罪
「思い付き型」「遊び感覚型」の犯罪
川崎の13歳の少年 遊び感覚

第2章 精神科臨床30年の現場から
山竹伸二「認められたい」
コミュニケーション能力が重要になり、「空虚な承認ゲーム」
「社会の承認」が不確実なもの、コミュニケーションを介した、「身近な人間のしょうんん」の重要性が増している
多少、不本意なキャラでも、承認を失わないように演じ続ける
キャラからはみ出すことは許さない

/社会の規範・役割にぶち当たって途方にくれる
わが国においては、大学までは学生は大切にされる。会社は、何といっても生存競争の中にある。

第3章 悩めない、語れない若者たち
/「コミュ障」とは何が問題なのか
斉藤環 現代のコミュニケーション・スキルにおいて、好ましいとされる属性は、「メッセージ内容の軽さと短さ、リプライの即時性、頻繁かつ円滑なやり取り、笑いの要素、顔文字などのメタメッセージの多用、キャラの明確さなど」
短く、浅く、身近な内容
コミュ障
語れなさ 自分の思いや考えをイメージ化して言葉にする能力 自分の体験を物語として語れない
語りの乏しさとともに反射的活主観的で一方的なコミュニケーション

/心の中からも村社会が消えた
親が優しくなった
何とか社会(村社会ともいえよう)に参入しなくてはならない
親からの働きかけもなくなっている
共同体感覚が消失した

/植物化とクラゲ化の二極化が進む
培養植物化 クラゲ化

第4章 「青春」がなくなった人と世界
/生きる力のベースとなる枯渇感と満足感
枯渇感が消えた
ものも情報も、多すぎてはいけない

/人間関係も時間軸もフラットなバーチャル世界
世の中の厳しさを知り、大人として生きるためのしつけや訓練も、与えられなくなった

/10歳までの育てられ方が一生のペースをつくる
今後養育格差社会が生まれる
子供を健やかに安定した人物に育てるのは家族だけ
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■目次  
プロローグ
/何もかもあるのに何もない世界
/「それは無理です」
/植物化する男子、クラゲ化する女子 
/ワンパターンでモノトーン
/子供のまま中年化する若者たち
/他国とは異なる変化が起きている?

第1章 いま若い世代に起きていること
・もはや動物でなくなりつつある-学童期の子供たちの変化
/さまざまな身体機能の低下
/物事を統合して把握できない
・あきらめ、流されて生きるー思春期の若者たちの変化
/多くの調査結果から見えてくる思春期像
/反抗期の減少ーいつまでも親が大好き
/買い物に行っても選べない、選びたくない
/思い付き・遊び感覚の犯罪の増加 
・言われたことはまじめにやる ー青年期の変化
/学生たちとの驚くべき経験
/車はほしくない、コスパには敏感
/将来は不安だけれど現在には満足
/親元から離れない、無理しない
・群れになれない世代ー学童期から青年期まで一貫している変化
/グループ活動が成り立たない
/自分ひとりの小さな世界で

第2章 精神科臨床30年の現場から
・思春期・青年期の心の病の変容
/古典的な神経症の対人恐怖症は軽症化
/摂食障害・BPD・不登校は70年代から増加
/90年代半ばからすべての疾患の病像が変化
・古典的な対人恐怖症から「ふれあい恐怖」「承認不安」へ
/わが国の伝統的な葛藤を抱えた若者・K君
/2011年に受信したR君ー現代型対人恐怖症
/「身近な他者」の承認を求めて汲々とする
・摂食障害の変化ー激しい拒食から、漂う過食へ
/「完璧な良い子」の強烈な自己主張・A子さん
/親・治療者への拒否的エネルギーが弱いB子さん
・苦しむ不登校から葛藤なき不登校へ
/優等生の息切れ型不登校・J子さん
/葛藤なきタイプ・語れないタイプの増加
・沈静化した家庭内暴力
/開成高校生殺害事件のT君
/川崎金属バット殺人事件のI君
/高学歴神話が生んだ悲劇
/ネット回線を切られて暴れたG君ー最近の家庭内暴力
・増加する若者のうつ病ー現代型うつ病の登場
/典型的な従来型うつ病のY君
/現代型うつ病(新型うつ病)とは何なのか
/「うまくいかないのは会社のせい」のX君
/やさしく、素直すぎ、周囲にあわせすぎのW君
/社会の規範・役割にぶち当たって途方にくれる

第3章 悩めない、語れない若者たち
・すべてにおいてエネルギーが低下ー元気のない若者たち
/飛行も病気もおとなしくなった
・反射的・断片的なコミュニケーション
/「わからない」「別に」「何となく」「びみょう」 
/「コミュ障」とは何が問題なのか
・自分から動けないー主体性の低下
/少し困るとすぐに固まる
・社会参加へのモチベーションが低下
/心の中からも村社会が消えた
・理想を追い求めない
/理想の自己像がないから葛藤もない 
・脆弱な子供のままの若者たち
/根拠なき万能感ゆえの、傷つきやすい自己愛 
・「症状が出せない」「病みきれない」若者たち
/症状を出すだけの力がない
/様々な症状が断片的に出てくるU子さん
/リストカットを続けて死んでしまった南条あやさん
・自分の世界にこもる若者・状況に漂い続ける若者
/植物化とクラゲ化の二極化が進む
/多くを望まなければ生きていける

第4章 「青春」がなくなった人と世界
・世の中から失われたもの
/明治維新以来の成長神話の終焉
/世の中から理不尽が消えた
/親に反抗し、異性に恋い焦がれる「青春」が消えた 
/生きる力のベースとなる枯渇感と満足感
/群れて進化してきた人間から「群れ」が消失
・新たに、我々の環境に溢れてきたもの
/自分は有能で評価に値する人間だという思い込み 
/生活の隅々まで行き渡った巨大システム
/人間関係も時間軸もフラットなバーチャル世界
/世界のスピード化は人間をどう変えるか

第5章 日本人はこのまま衰退するのか
/「ワクワクするのは疲れます」24歳L君
/「もう人に気を遣うのに疲れました」23歳Hさん
/子供のまま諦めの中年期を生きる
/「成熟社会の宿命」だけでは説明がつかない
/若者の亜スペルがー傾向が進んでいる?
/不幸ではないが、ぼんやりと不安
/狭い世界の身近な理不尽が押し寄せる
/10歳までの育てられ方が一生のペースをつくる
/経済格差より深刻な養育格差
/親は子をどうのうに育てればよいのか

エピローグ
/新しい若者・新しい頑張り方
/植物的な生き方こそが時代に遭う
/やっと足元を見るようになった

あとがき
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