2016年2月21日日曜日

「紙の月」 吉田大八 2014 ★★★

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スタッフ
監督 吉田大八
原作 角田光代
脚本 早船歌江子
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梅澤梨花(横領する銀行員):宮沢りえ
平林光太(梨花の不倫相手の若者):池松壮亮(いけますそうすけ)
相川恵子(今時の銀行員):大島優子
梅澤正文(梨花の夫):田辺誠一
井上佑司(副支店長):近藤芳正 
平林孝三(資産家で光太の祖父):石橋蓮司
隅より子(ベテラン銀行員):小林聡美
14歳の梨花:平祐奈
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2014年の日本映画界を語る上で忘れられないのがこの映画。様々な映画賞においてもかなりの受賞を得たことでもその名前が世間に知られることになった。

監督は「桐島、部活やめるってよ」で名声を集めた吉田大八。ヒット作の次に手がけたのは角田光代のベストセラー原作。7年ぶりに映画の主演を勤めたという宮沢りえの姿を始め、至る所で非常に独特な映像を見せてくれる監督である。

夫との関係が冷めつつある、地味な銀行員の主人公・梅澤梨花。外回りの営業として丁寧に日々の業務をこなしているが、夫とのすれ違いの中で徐々に日々をむなしく感じ始めた折に、訪問先の顧客の孫である大学生・光太と出会い、徐々に不倫へとはまっていく。無邪気な光太と過ごすうちに、徐々に気分が大きくなり、少しずつ銀行の金を着服するようになり、その金を使って光太と刹那的な快楽に溺れ、そのことで彼の気持ちをつなぎ止めようとする。さすが原作がよく創りこまれているだけあり、物語の設定に破綻がなく、あとはそれをいかに映像の世界として、小説以上の世界観を作り出せるか否か。

その中ですばらしいのはやはり主演の地味であるが、徐々にそして静かに自我を露にしていく梨花を演じる宮沢りえ。中年女性の哀愁や、大学生にとっては十分大人の女性として魅力的にうつる年齢を見事に演じてみせる。

そしてもう一人はこちらも主演といってよい光太役を演じた池松壮亮(いけまつそうすけ)。甘ったるく「梨花さーん」と呼ぶ、如何にも世間知らずの甘ったれ大学生という感じの演技は、役を飛び越えた不快感を感じさせるに十分な演技。なんでも10歳でミュージカル「ライオン・キング」のシンバ役でデビューした子役出身の俳優で、映画デビューは「ラストサムライ」というから、その演技力には納得。

その演技は十分見事なのは分かるが、どうもイケメンになったバカリズムという印象が強く、やはり骨格が似ていると声も似てくるのだろうか、非常に似た声も手伝いなかなかストーリーが入ってこなくなる。

宮沢りえの地味な銀行員が自らの女としての喜びのために、今までの人生であれば決して踏み越えることのなかった一線を越えてしまった後は、後は流れに流されるままに堕ちていく。それでも日常は淡々と過ぎていくのだということをじっとりした暗い空の下で撮影が行われたのかと思う映像で綴っていくのは非常に雰囲気のある展開である。

徐々に堕ちていく女と、徐々に離れていく若い男。そして臨界点に達して横領が発覚し、逃げ場を失った梨花が逃げ出し、ひたすら走る。途中までは徐々にストレスが溜まっていき、臨界点も近いのでは・・・という緊張感を感じるが、最後がやたらストレートな展開だな、と思ってしまうのは、それは映画というか原作の問題で、やはり映画として観るのなら、十分に素晴らしい映像作品といえるのだろう。
吉田大八









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