2016年2月13日土曜日

「日本の大問題 「10年後」を考える ─「本と新聞の大学」講義録」 一色清 姜尚中 佐藤優 上昌広 堤未果 宮台真司 大澤真幸 上野千鶴子 2015 ★★


現役世代の人口減少、地方の衰退、東京への一極集中、少子高齢化、老人の貧困、子供の貧困、女性の貧困、中高年の引きこもり、ブラック企業、消費税の引き上げ、社会保障問題、コミュニティの分断、エネルギー問題、不安定化する天候、いつくるか分からない首都直下型地震。

あげればきりが無い現代日本の直面する問題。それぞれの問題は複雑に絡み合う社会の要因によって引き起こされており、簡単に解決方は見つからない。そしてそれらは目の間の問題を見ていても、根本的な解決には至らず、何十年というタイムフレームを踏まえて、将来この国がどの様な社会となるのが適切なのか?その将来ビジョンを明確に捕らえ、そこから逆算的に現在の問題に向き合うことが必要であるのは間違いない。

その時に、遠すぎず、そして近すぎない10年という時間単位は現在の社会が抱える問題を顕在化させるのに十分な長さを持ち、それでいながら手の届く未来として十分に想像でき、かつ自らの問題として捉える場所にいるのであろう。


「第1回 基調講義 一色清×姜尚中」にあるように、
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グローバル化と日本社会の問題
国境を低くして海外の「ヒト・モノ・カネ」を利用するしか生きていけない
グローバル化を進めていけば、一人ひとりの働き手が非常に激しい競争に晒されることは間違いありません 
ほどほどということがなくなります
競争に勝ったものは豊かになるものの、多くの敗者が出ることは確実
グローバリゼーションの波 英語とIT
世界で本当にグローバルな人材になろうと思えば、リベラルアーツ、教養教育がとても大事
幅広い教養のある人が英語やプログラム言語もできて初めてグローバル人材と呼べる
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内に留まっていても、外から押し寄せる圧力は止められず、移動が活発化するこれからの世の中では、否が応でも育ってきた背景の違う外国人とともになって社会の中で生きていかなければいけない。世界でも最高クラスに心地よい日本で育つ人にとっては、外との摩擦はそれだけで負担となるだけに、国として今後どのように若者の教育に取り込んでいくのか非常に興味深い。


「第2回 反知性主義との戦い 佐藤優」
それにしても、よく本読んでるなぁと思うが、「闇金ウシジマくん」でお金がどれくらい怖いものなのかを知るというのには、大変説得力を感じる。

「第3回 高齢化社会と日本の医療 上昌広」
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愛知県では名古屋市に医師が偏在する
医師不足の問題は、どこに医学部のある大学を作ったかということに非常に影響される
愛知県は江戸時代まで尾張と三河 戊辰戦争で、徳川御三家だった尾張藩が真っ先に官軍側に寝返った一方、やはり徳川譜代の三河諸藩は最後までまとまることができず、その結果、尾張には医学部が四つもつくられた、三河にはゼロ
旧三河には、日本でもっとも豊かな自治体の一つである豊田市があるにも関わらず、医学部が無いために医師を養成することができない

明治維新時における藩のポジションが影響。
江戸時代、現在の兵庫県に当たる地域の中心は姫路で、維新時、ここの施政者は徳川四天王筆頭である酒井宗家
それを理由に、明治以降、姫路は冷遇され続ける。いまだに姫路には医学部や工学部を持つ総合大学が無く、もちろん医学部も無い
和辻哲郎や柳田国男が出た 江戸時代の蓄積
最近では、姫路出身者でこれはという人物は出ていない
一県一医大構想 つまり、国土の均衡ある発展のための政策が国土の高度な不均衡をもたらしてしまった

これからの世代が生きていくうえで鍵となるのは、「自分の頭で考えられるかどうか」ということ。自分が今まで知らなかった環境で学び、働く機械は、自分の頭で考える人間を育てるためには非常に大切
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三河出身地だけに非常に興味深いこの話。そしてこれだけ予測の難しい世の中では、知識を持っているのだけでは十分でなく、それを組み合わせ、目の前の問題にどう対応できるかを自分で考えていける人。そんな人をどうやって育てていくのか。


他の章でも問題は、大きなフレームをなっているのはやはりグローバルな世界の中での日本の立ち居地と、そして日本人としてそこにどう関わりを持っていくか。多様性が混在することで、世界中に混乱が起きている現代。10年くらいでその多様性を許容する社会が世界中に出来上がるとはとてももじゃないが思えることはできず、それでもガラパゴスとして心地よい場所を国内に確保しつつ、そこから出て行かないということがよりいっそう価値を増すのとともに、それでもそこから外にでて、世界の中で太刀打ちしていく人材には、会社単位だけではなく、できるだけ国として大きなサポートを与えていくようにしていかないと、ほとんどの人が国内に留まる椅子の奪い合いになるのだろうと、なんだかぐったりしたように本を閉じることにする。


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■目次
第1回 基調講義 一色清×姜尚中
第2回 反知性主義との戦い 佐藤優
第3回 高齢化社会と日本の医療 上昌広
第4回 沈みゆく大国アメリカと、日本の未来 堤未果
第5回 一〇年後の日本、感情の劣化がとまらない 宮台真司
第6回 戦後日本のナショナリズムと東京オリンピック 大澤真幸
第7回 二〇二五年の介護:おひとりさま時代の老い方・死に方 上野千鶴子
第8回 総括講義 一色清×姜尚中
あとがき
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