2015年11月15日日曜日

「ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性」 荻上チキ ちくま新書 2007 ★★


ここ数年、数日に一度は目にするようになった言葉がこの「炎上」。燃え上がっているのは古い住宅がびっしりと建ち並ぶ木密地域ではなく、広大なネットの世界。誰かが何かを言えば叩かれ、鬼女達に追い詰められる。「いつまで続くのだろうか」と思いながら眺めていると、次の標的が現れたらあっという間にそちらに移っていく、まるでイナゴの様な現象。

確かにこれは誰でも、どこでも、即座に、タダで情報を得られ、と同時に、誰でも同じように発言者になれる土壌が整備されたネット時代特有の現象であるのは間違いなく、それを冷静に分析して、そのメカニズムを理解しておくのは、これからネット世界無しでは生きていけない現代人にとってはある種の基礎講座となっていくのだろうと思いながら手を伸ばした一冊。

「ウェブ」や「インターネット」を「怪物」と称する著者のセンスは、現代に生きる人がそこはかとなく共有しているなんとも掴みきれない思いを代弁しているのであろう。問題は、ネットが不可避の存在として生活に入り込んだことによって、我々現代に生きる人間は、無意識のうちに社会的振舞いを変化させられてしまっているのではないか。そうであれば、ネットによってトリガーされた人間の持つ新たなる側面とはいったい何なのか?とあくまで「人」を知ろうとするその態度には、非常に強い共感を感じることになる。

以下本文より抜粋。
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/「怪物」としてのインターネット
「ウェブ進化論」 ウェブはすべての情報を接続し、データベース化していきます

ウェブは、「みんなの意見」をデータベースに取り込み、履歴を積み重ねていくことで、より上質のサービスを個人に向けて提供してくれる
その動きは止まることなく、より正確に、より貪欲に、より膨大に、より高速に、より俊敏に、より多くの人を巻き込んでいきます。ウェブは、あたかも独自の生態を持った生物のようなものだ。

/「メディアはメッセージである」
メディアはそのあり方によって、欲望自体を欲望させるというようなことを生じさせます。
私たちの社会はインターネットという「怪物」によってこねくり回され、生成変化さえられています
「ウェブ以前」と「ウェブ以後」の社会では、どの様に異なるのか

/「可視化」と「つながり」
「可視化」と「つながり」という二つの概念を用いて考察する
インターネットは限りない数の情報を目に見えるように「可視化」情報と情報をどんどんつなげていきます「つながり」
総表現社会

/「ロングテール」という期待の地平
マジョリティ(主流派・多数派)ではない欲望でさえも技術の発展によって肯定され、その欲望が経済市場に貢献する

二章 サイバーカスケードを分析する
ウェブ 自分に入ってくる情報を予め自分用にカスタマイズできるメディアであり、と同時に誰もが情報の発信者になれるメディア

情報フィルタリング 
ウェブ上で人は、自分が知りたいと思う情報を収集します
個人の先入観に基づいて他者を観察し、もともと持っていた考え方や偏見にとって都合のいい情報だけを集め、それにより自分の先入観を補強することを確証バイアスと
印象深い記憶のみが強調されることをセレクティブメモリ

/エコーチェンバーがもたらす分極化
人はより自分に適した集団を求め合う
強調フィルタリング

/集団分極化とサイバーカスケード
人は誰しも自分の見たいものを見たがるし、自分の見たくないものは見たがらない。見たいものを見たら喜ぶし、見たくないものを見たら不快な気持ちになる。

理由の一つは、あらゆる面で多くのコストを払わずに済むから
メディアに触れることで、特定の欲望を喚起させられることがある 

/アーキテクチャという思想
アメリカの憲法学者 ローレンス・レッシグ [Code]人の行為を制約する力には4種類 法、規範、市場、アーキテクチャ
現代社会で働き続ける限り、ほとんどの人が、時間や場所、場合を問わずあなたを媒介しようとする「仕事コミュニケーション」へと接続しなければなりません。
そこから「降りる」ことはよほどの場合でないと難しいようです。

/可視化とつながりによる「誤配」の増大
「これまでつながっていなかったものがつなげられる」ということは、「ウェブ以前」であれば時間的、空間的条件などによって隔てられていたはずのコミュニケーションが遭遇すると言うことを意味します

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■目次  
はじめに(公開中)
一章 ウェブ炎上とは何か
日常化したインターネット
/注目をあつめる「web2.0」
/盛り上がるマーケティング言説
/「怪物」としてのインターネット
/「メディアはメッセージである」
/「可視化」と「つながり」
/「ロングテール」という期待の地平
/集合知は信用できるか
/サイバーカスケードという言葉
/ブログへのコメントスクラム
/個人情報をめぐる騒動
/企業と「祭り」
/商品をめぐる「祭り」
/盛り上がる「投票ゲーム」
/流行語をめぐる騒動
/「怪物」の二面性

二章 サイバーカスケードを分析する
デイリー・ミーとエコーチェンバー
/エコーチェンバーがもたらす分極化
/「デリート・ユー」の誘惑
/集団分極化とサイバーカスケード
/インターネットの起源
/のび太くんに見る道具と欲望の関係
/メディアの不透明性
/アーキテクチャという思想
/議論を左右するアーキテクチャ
/自走するコミュニケーション空間
/ブロガーとして、ニュースサイト管理人として
/複数のコミュニケーションへの常時接続
/可視化とつながりによる「誤配」の増大
/記号流通回路の変容

三章 ウェブ社会の新たな問題
イラク人質事件へのバッシング
/「自作自演説」というハイパーリアリティ
/流言飛語はなぜ生まれるのか
/デマの出現とリアリティの構築
/「分かりやすさ」へのカスケード
/立ち位置のカスケード、争点のカスケード
/「浅田彰の戯言」という流言飛語
/潜在的カスケードと顕在的カスケード
/「ジェンダーフリー」をめぐる騒動
/まとめサイトと抵抗カスケード
/アンチサイトの揺るがなさ
/「福島瑞穂の迷言」をめぐって
/リアリティと「ソース」をめぐる困難
/自走するハイパーリアリティ
/言説空間の不可避的困難とは?

四章 ウェブ社会はどこへ行く?
サイバーカスケードの功罪
/ネットがもたらす過剰性
/道徳の過剰
/ウェブにおける行動と予期の変化
/ウェブと政治の不幸な結婚?
/批判の語彙
/「2ちゃんねらー=右傾化した若者」という間違い
/シニシズムの回路と向き合うこと
/監視の過剰
/討議を豊かにするアーキテクチャへ
/ハブサイトの役目
/「鮫島事件」と自走への自覚
/合意によるリアリティ
/悲観論と楽観論を超えて

あとがき
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