2015年4月12日日曜日

「地方消滅の罠: 「増田レポート」と人口減少社会の正体」 山下祐介 2014 ★★

最近どの書店に行っても店頭に積まれているのが増田寛也著の「地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減」 。「消滅可能性都市」として地方の多くの都市が今後この日本から消えていくだろうと縮小社会に現れる現象の一つをセンセーショナルに世間に突きつけた話題の一冊。装丁も赤く警告色を使うようになり、日本の未来に迫る暗い影として十分に世間に浸透したと思われる。

通称「増田リポート」と呼ばれるこの本の基となった報告書。地方の効率の悪い地域や都市は今度どんどん成り立たなくなるから、国として大胆な「選択と集中」によって、「地方中核都市」に人材と投資を行い、大都市圏の一極集中による極点社会を防いでいくべきだというその論調。

その本の影響力があまりに凄いので、そのカウンターとして出されたのがこの一冊。「ちょっとまって、ちょっとまって」と流行のフレーズの様に、「選択と集中」が規定路線として論を進めるのはちょっとおかしいんじゃないか。もっと他の未来の形だってあるんじゃないか。という内容。

まさに「今」を語る内容で、「今」に読むべき本であろう。

話題になった本の後追いや、そのおこぼれにあずかろうとした商業主義丸出しの本かと思ったが、建築家として日々向き合う内容でもあるし、できるだけ多方面からの考え方は見ておいたほうが良いだろうと自分にしては珍しく本屋にて購入した一冊。

新書を読むとその出版元によって、字の大きさが違い、行間の幅が違い、それによって一冊といっても総文字数においては圧倒的な違いが出てしまうと疑問に思ってしまうが、この一冊に関しては著者の想いが溢れんばかりにものすごい文字量。

ただし、文字量が多ければ多くの内容が伝わるという訳ではなく、それが学者という調べる人と、本と言う物事を専門以外の人も含めた多くの人に伝えるものとして、必要な能力が決して一緒ではないということも大きい。

それに比べ前述の「地方消滅」は、問題、論点、方法論が非常にはっきりしており、誰が呼んでもすんなりその内容が入ってくると思われたが、この本に関しては、局部の話が多すぎで全体の筋が見えないまま新書としては相当な頁数を進んだ後に著者のポイントが示される。

本を書いていれば、「これもあれも伝いたい。本に入れたほうがより分かりやすくなるのかも」と思ってしまうのだろうが、それでもスリム化して全体の筋をはっきりし、「地方消滅」と同等かそれより薄い本として必要なところだけで世間に問うた方が、カウンター本としての位置づけが明確になったのではと思わずにいられない。

そんな訳でなんどか挫折しそうになりながらも、「何か職業としてこれからの日本の社会に向き合う上でヒントがあるのかも」と期待して読み進めることに。それが二重住民票とは・・・と少々がっかりせずを得ない。

やはりこの問題は複雑系に属する問題で、何か一つの専門分野に留まる人にはその全体像を捉えることは非常に難しい問題だと改めて理解する。社会という様々なパラメーターが複雑に絡み合い、その中において人口減少という新たなる局面が与えた国の形の変化いう一大事件に伴って、様々な事象が付随して発生する。

著者の言うことはほとんど正しいのだと思う。どれも全うな正論である。しかし、社会には多様な人々が多様なスタンスで参加しており、複雑に絡まった利権が現状からの変化を拒むかのように膠着化させ、その遅延が将来の国づくりにとって大きなマイナスとなっている。

必要なことは決して背伸びをせず、自分の利益を守ることから距離をおき、この国にとって、この国に30年50年後に生きる人たちにとって、どういう国の形が相応しいのか本気で考えることができる人を集め、明確な国のビジョンを策定し、それに移行するためにはどんな手順を踏まえてどんなことを変えていかなければいけないのかを、たとえそれがどんな痛みをもたらそうとも、どんなに多くの人の既得権益を奪おうともやり遂げること。

そんな未来からの視点とともに、現在から目標と定めて先に向かって引かれた線の上で、今日より明日が少しでも前に進んでいるために、現在の視点からできることを少しでも進めていくこと。

こういう大きな方向を決めるためには複雑系を理解する本当に優秀な数名くらいに半年くらい根をつめてもらってビジョンを作ってもらい、個人の利益がその地に依存しない政治家や専門家が都市を変えていく権利を思い切って与えていく。

かつてこの国で起こった「維新」という動きは、人気取りではなくその様な大きな改革のムーブメントだったのではと思いながら本を閉じることにする。

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