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所在地 静岡県沼津市我入道
設計 菊竹清訓
竣工 1970
機能 記念館
規模 地上2階
構造 RC造
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街並みもすっかり夕闇に沈んでいくトワイライトの中を車を飛ばし、本日最後の目的地が待ち受ける山の上へと上っていく。
菊竹清訓が追い求めた建築の「か」「かた」「かたち」。建築の重要なタイポロジーの一つとして、都市住居の「かた」を長年にわたり研究し、それを具現化したといわれるのがこの段球状の集合住宅である「パサディナハイツ」。
その特徴的な名称はどこから来ているかと言えば、前半のパサディナ(Pasadena)はアメリカのロサンゼルス近郊にある高級住宅街の名称で、後半の「ハイツ」は高台にある集合住宅を指すとされている。つまりは日本国内における、高級感を伴った高台に作られた集合住宅として、今までの集合住宅と一線を画そうとする意図が見て取れる。
山に沿った傾斜地に建つことのメリットは古くから語られてきた。
・眼下に広がる低地の良好な眺望を得ることができる
・地形に沿ってセットバックするために地面との関係性が常に数層と抑えられ、高層建築で感じるような地表面との隔離を起こさずに良好な住環境を形成できる
・配置によって多くのユニットがすべて南に面して良好な採光を得ることができる
・地形が作り出す自然の形態に沿った建築物となるために、周辺環境との形態的融和がもたらされる
・地形にそってセットバックすることで下層の住戸の屋根面をプライバシーの問題を起こさずに上層の前庭として利用できる
等々、様々なアドバンテージが考えられる。しかし同時に
・傾斜地での施工となるために施工費の高騰
・良好な地盤が浅い部分に見つからないときの基礎への費用の高騰
・片側が山ということで通風をどう確保するか
・山の近くに建設されるために、市街地からの距離という利便性の問題
等々、多くのデメリットももちろん考えなければいけない。
それでも「名作を生む」といわれる傾斜地の建築はやはり、建築家にとって大きな挑戦の場となり、また「これこそが傾斜地に建つ建築の到達点だ」と言わんばかりの作品が世に生み出されてきた。
斜面という特殊な条件に対応する建築としては大きく二つの方式がある。それは斜面に対して「浮かす」か「すりつける」か。建築的には地面の力に対抗することなく、軽く柱によって浮かす方式とその力を基壇として受け止め、その基壇自体が建築となるすりつける方式。
それを念頭において近代建築以後どのようなチャレンジがなされたかをあげてみる。
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1974年_パサディナハイツ_菊竹清訓_静岡
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このように近代建築以後でも相当多く傾斜地建築の住空間としての可能性が試されてきたのが良くわかる。その年表の中でこの「パサディナハイツ」を見ると、戦後から沸き起こった住建築の探求と、その後にやってくる「より良い住環境として建築のあり方」として世界中でこの傾斜地の可能性が探求され、それぞれの地においてある種の「かた」が提示されているのが見て取れる。
もちろん根源的な意味として空間への可能性をもたらす「かた」であるために、近代建築以前にも世界中の様々な場所で自然発生的に同じタイポロジー見ることができる。
等々、低層なので比較的に建設が容易であること、密集していながら良好な採光が望めるなどの要素から、原初的な建築が作り出す一つの風景として存在する。
これらの前ふりを経て改めてこの「パサディナハイツ」を見てみる。計120戸の集合住宅は下層の住居の屋根が上の住居の庭となり、南に向かって傾斜するためにすべての住戸が南配置となり良好な採光を得ながらも、この傾斜側に階段を設置し南側から各住戸へのアクセスとしている。
通常こうするとプライバシーの問題が起こるが、それをさきほどの前庭によって距離をとるのとともに、スクリーンとして視線をかわす意図となっている。これだけではなく北側、つまり住戸の裏側からもアプローチが設けられているという。
この建築について詳しくは下記のサイトが一番まとまっていると思われるので参照してもらいたい。
日も沈みまわりはすっかり闇に覆われた中、現在も使われている住宅地ということでプライバシーを侵さないようにテラスの階段を上っていく。眼下に広がる景色の広さと、斜面に沿って流れている夕暮れの風の心地よさを感じながらも、この時間にも関わらず照明がついている住戸の少なさに、建設から40年が過ぎた現在もここで住まう人がそれほど多くは無いことを見て取ることができる。
もし自分がこの地に住まう機会があっても、毎日先ほど上ってきた山道を上り下りするという利便性を越えるだけの住空間として魅力を感じられるかどうか。時代を超えて普遍である住空間の魅力と、都市の時代に入った現代における利便性の問題、そして縮小社会に入った日本の社会の在り方など、集合住宅の「かた」と社会との関係性に思いを馳せながら、場所によって形の違う腰壁の紋章を見ながら階段を下りることにする。
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