2014年6月3日火曜日

ベニス・ビエンナーレ

2年に一度、この都市で開催される「ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」。

第14回となる今回は総合ディレクターにオランダの建築事務所OMAを率いるレム・コールハース(Rem Koolhaas)が指名され、綜合テーマを「ファンダメンタルズ(Fundamentals)」として、細分化が進む建築世界の現状を踏まえ、建築の、そして建築家の職能の原理原則とは何か?と疑問を投げかける。そしてクールハースが直接急レーションを行い、メインのパヴィリオンでは床、壁、天井、屋根、戸、窓、ファサード、バルコニー、廊下など、建築の基礎的な要素がどのように歴史の中で発展してきてその意味を変容させてきたのかを展示する。

各国パヴィリオンの統一テーマは「近代化の吸収:1914-2014(Absorbing Modernity)」として、IT革命と交通革命を背景にしたグローバリゼーションが世界を覆った現代において、グローバルとローカルの中で、均質化世界の中でもそれでも地域的な「ナショナル」なものが存在しうるのか?そしてそれはどのような発現を伴うのかと投げかける。

そしてこちらもクールハースが直接キュレーションを担当するアーセナーレ(Arsenale)会場の長い展示空間を使って展開されるのは「モンディタリア (Monditalia、イタリア世界)」と名づけたイタリアという国の現状についての展示が行われる。

全体的に見れば、やはり「ファンダメンタルズ(Fundamentals)」という大きな投げかけがあり、それに対して各国が「ファンダメンタルズ(Fundamentals)」を頭の中に入れながら、それぞれの国の「近代化の吸収:1914-2014(Absorbing Modernity)」について2年近い時間を費やし辿り着いた答えが展示として回答されるという大きな図式となっている。

ビエンナーレの醍醐味は、世界の一線で建築世界を引っ張っている建築家やキュレーターが、この舞台を使って一体どんなことを投げかけるのか?何を考えているのかに対し、各国を代表する建築家やキュレーターが、共通の投げかけに対し、各国独自の返答を展示という形で帰すダイナミズムにあるであろう。

それと同時に、世界で活躍する建築家や、これからより活躍の場を広げていくであろう有望な若手建築家達が、各国パヴィリオンに関わることもあれば、各国パヴィリオンでない他の展示に直接に関わることもあり、世界で一体どの様な動きが起こっているのかを肌で感じることができる期間でもある。

日本で建築を学び、建築実務に関わっていても、その名前と知名度は知っているが、夏のこの時期に休みとかねてわざわざベニスまで足を運んで、展示を見学する。もしくは日本館の展示に関わる建築家となるというのは、あまりにハードルが高いことである、実際にビエンナーレの展示を見ることはなかなか叶わないのが実情であろう。それに比例するように、そこで何が行われ、何が話し合われ、何が繋がっていくのか。それも知ることがないのは非常にもったいないと思わざるを得ない。

アート関係の友人などと話していると、「今年のビエンナーレは行くの?」と皆さん、なかなか軽い感じで足を運んでいるようであるが、世界の兆候を知ることがその仕事でもあるアートの世界と、数少ない枠に択ばれなければ参加することが叶わず、仕事以外でわざわざ展覧会に足を運ぶことは厳しい建築の世界ではやはりその距離は大きいと言わざるを得ない。

そんな訳で、ロンドンという比較的移動距離の少ない場所で大学院を過ごしていた折に、学生という今から考えたら馬鹿の様に時間がある身分の為に、機会があって訪れたベニスでたまたまこのビエンナーレの開催時期に重なったため、会場に足を運んだのが自身にとっての始めてのビエンナーレ体験。

その時は圧倒的に先進的な議論が行われ、深いリサーチと、それを伝えるための圧倒的なプレゼンテーションの技術に圧倒されるとともに、この場に参加することが建築家としてどれだけの立ち位置であるのか、そしてそのハードルを越すことがどれだけ親密なネットワークを作り出すのか、そしてその時の自分との距離の差に少なからずショックを感じて帰ってきたのを今でも思い出す。

歴代の建築家や建築の世界においても思考実験としてその先の建築の方向性がその中から浮かび上がってくるような舞台でもあるビエンナーレ。

特にオープニング前後の時期には、街中がこのビエンナーレに侵食される。二つのメインの会場に入りきらない小さなパヴィリオンは街中のいたるところに散らばるようにして展開し、また様々な場所でシンポジウムや各国や各展示のオープニング・パーティーが開催される。

新進気鋭と言われる若手建築家から、スターキテクトと呼ばれる大御所まで。様々な建築家が何を考え、何を語るのかを目の前で体験し、様々な場所で実際に言葉を交わす機会も与えてくれるのがビエンナーレ。まさに街中がその舞台となる数日間。

我々MAD Architectsにとっては3回目のベニス・ビエンナーレ。一度目はいろんな手を使ってもどうにも公式の展覧会には含めてもらえないので、自分達で手を打って会場を確保し、同じ時期に展示を行うというかなりゲリラ的な参加から、2008年に晴れてオフィシャルな展示の一部として参加でき、6年ぶりとなる今回の参加。

その間に自分達が過ごした時間がどのような意味を持ち、自分達がどれだけ建築家として成長をしたのか、自分達の立ち位置と世界への距離感を確かめるためにもとても良い機会。数日間の滞在からまた次の2年への宿題をできるだけ多く持ち帰ろうと思いながら、今回のビエンナーレを楽しむことにする。

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