2014年2月4日火曜日

「青い鳥」中西健二 2008 ★★★

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スタッフ
監督 中西健二
原作 重松清
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阿部寛 村内先生
本郷奏多 園部真一
太賀
荒井萌
篠原愛美
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作品データ
製作年 2008年
製作国 日本
配給 日活、アニープラネット
上映時間 105分
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ほんの数年前、大津市のいじめ自殺の問題がきっかけとなり日本中があれだけ注目し、加害者の少年達の非道な仕打ちや、教育委員会の対応の悪さ、保身ばかりが目立つ学校の対応など、現在進行形の学校における「いじめ」の問題が再度スポットライトを当てられるようになったのは記憶に新しい。

「少年一人が自ら命を絶った」という事実そっちのけで、誰もが自らの保身の為に責任の擦り付け合い、原因を曖昧化させようとするその姿に世間の誰もが思ったはずである。

本当に必要なのは犯人探しではなく、子供を追い詰めてしまう現行の学校というシステムに対して何かしらの有効な方法を見つけ出すことであるということ。

若者が命を絶たなければいけないほど思いつめ、それを友人も大人も誰もが止めることができず、そして今この時にも、同じように思いつめている若者が日本のどこかにいること。それにも関わらず、ただただ無駄に公共の電波で自分のことだけを考える大人の姿を垂れ流しする。

平成23年の小・中・高校生の自殺者数は353人であり、その内訳は、小学生:13人、中学生:71人、高校生:269人だという。そして学年別で見た時にいじめが一番多く報告されているのは、中学1年生であり、17,063件のいじめが認知されているという。


もちろん、学生が自殺する理由が単純に「いじめ」であるという訳ではないだろうが、逆に言えば、自殺に至らなくとも、「いじめ」によって本当に自殺してしまわないが、してしまおうかと思いつめている少年も多くいるはずで、その数は決して統計には表れない。

ただし、「自殺」という収束点を迎えると、それまで積極的にも消極的にも「いじめ」参加、もしくは関与していた他の生徒にも明らかに、一人の少年に対してどれだけのテンションがかかっていたかを目の前に提示することになる。明らかな「悪」の行為に自らも参加していたか、もしくは都合のよい不参加を装っていたかの違いはあれど、そのテンションのかかった時間を見ていたことに違いは無いと目の前に突きつける。「パン」と音を立ててはじけるビック・バンの様に。

日本の社会の中では恐らく多かれ少なかれ、誰もが学校生活の中で、何かしらの形で「いじめ」に遭遇してきているはずである。残念ながら小さな社会の中で、自らの存在意義を意識する為に誰かを相対的に陥れるのは一番手っ取り早く自らの優越感を成し遂げる手段として有効であるのだろう。

この映画は、重松清による小説の映画化。いじめにより、自殺未遂を起こした少年が引っ越していった後の中学校。学校も生徒も、誰もがひとしきり反省を口にし、終わったこととして蓋をしていたはずのその事件。そこに吃音…つまり、どもり口調の臨時教師がやってくる。彼はそこで行われたいじめを過去のこととすることを許さず、生徒が自らの心でその事実に向き合うことをそのゆっくりとした口調で求めていく。

この物語が描くのは、決して生徒が自殺をして死んでしまった教室ではない。自殺未遂を起こすが命を取りとめ、家族揃って別の街へと引っ越していった後の街と中学校の物語。つまりは、どこかのホームページに掲載されているような統計という数字には決して現われない物語。しかし、大切なのは、この少年を始め、自殺を本当にしなくても、同じくらい苦しみ、悩み、自らの将来をまったく違ったものにしてしまう、いじめを受けている少年や少女が日本中にはきっと星の数ほどいるということ。

そしてそれと同じように、どんな形であれその光景を日常の中で目にし、いつまでたってもその時に罪悪感に苛まれるその他の生徒達がいるということ。いじめに直接的に関わっている生徒だけではなく、その周囲にいるすべての生徒達にとって深い傷となってその後も残っていくことを教育関係者は深く理解する必要がある。

学校においての尊厳が失われ、毎日どこかの報道で「教職関係者による犯罪」が報道され、肥大した個人のエゴを満足させる為に他人を引き落とそうとする学生と、自らの責任を放棄し、刹那的な優越感を得ようとする両親に監視され、余計なことはせずに、マイナスポイントを重ねないように業務を全うすることだけに執心する教師達。

そんな現代だからこそ、けっして流暢に喋ることはできないが、どもりながらも発せられる言葉には、その人の意思と生き方が込められており、だからこそ徐々に皆の心に響いていく教師;青島の語りが印象的に聞こえるのだろう。「まきちゃんぐ」の印象的なテーマソングと共に、是非とも多くの中学生に見て、聞いてもらいたいと思える一作である。

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