日本人であるならば、どこかの段階で修学旅行などで東京に立ち寄っているはずである。その時に必ず立ち寄るのが皇居。そして説明を受けるのは勇ましい姿を見せる楠木正成像。
戦国時代の武将でない為に、テレビなどで何度も何度も繰り返して刷り込まれるイメージも薄く、確かにメジャークラスの人物にも関わらず、それほど詳しく知っている人物でもない。
そもそもどの時代の人なのか?
武将なのかどうなのかすら怪しい・・・
とにかく御所の前に銅像が飾られているだけあって、さぞや歴史の中で天皇家に対しての忠誠心を見せた立派な忠臣だったのであろうというイメージばかりが残っている。
そんな訳で手にしたこの一冊。そういえば北方謙三自体、それほど手にすることなく生きてきてしまい、それゆえに余り南北朝辺りのインプットが足りてないのかと思いながら読み進めることにする。
そもそも南北朝という言葉自体がかなり怪しい。つまりはそれぞれに天皇を担ぎ上げ、北と南に分かれて争ったということで、かなり荒れた時代背景ということになる。その年代も、鎌倉時代の終わりから、この南北朝時代を経て、再度一つの皇族に落ち着きを取り戻し室町時代が始まるという流れでややこしい・・・
そういわれても、もともとなんで皇室が分裂しなければいけなかったのか?
という事を説明してくれないと分からないじゃないかと突っ込みたくなるが、つまりは鎌倉時代の幕開けと共に、国を統べる力が朝廷から実質的に武士の手に映り、それが数百年を続いてくるとそれを面白く思わない天皇も度々現れる。
「権力は自らの手にあるべきだ」。という思いから、鎌倉幕府の実験を握った北条氏に不満を持つ武士にたきつけたり、何かと手を売って鎌倉幕府の転覆を企てるが、その度に握りつぶされて、企てを行った周囲のものだけ処分され、また天皇は暫く静かにしているという事の繰り返し。
そんな流れのなかで、1331年に後醍醐天皇が再度鎌倉幕府の倒幕運動を企てる。最終的には今度こそそれが成就して、鎌倉幕府は倒されて、南北朝という二つの天皇がたつ混乱の時代を経て、最終的には足利尊氏による室町幕府の時代へと移っていく。そんな時代背景の中に放り込まれたのが主人公の楠木正成。
物語のなかでは、武士でもなく、農民でもなく、公家でもなく、「悪党」として扱われる当時の楠木正成。後醍醐天皇の皇子である護良親王と連携しながら、なんとか「倒幕」という火種に火をつける動きを河内でとりおこなう正成。
その動きが功を精して隠岐に流されていた後醍醐天皇が京に戻り、倒幕の動きは次第に巨大化し、最初は「なんとか武士の力を借りずに倒幕を成し遂げる」という正成の思いは叶うことはなく、当初のシナリオから徐々に外れながらも倒幕という大きな時代の1ページを刻む事になる。
その後、執政に戻った天皇への失望と、徐々に大きくなる足利尊氏の存在感。そこに起こる南北朝二つの天皇の擁立。時代に翻弄されて、それでも錦の旗を掲げて戦う正成。
室町時代後期に訪れるもう一つの混乱時期である戦国時代の武将達とはまた一味違った、ごつごつとした男らしさを感じさせてくれる正成の生き様。時代を読み、先を見据えるからこそ苦しみながらも、それでも「忠臣」として何百年もの後世で語り継がれるブレない生き様はやはりある種のすがすがしさを感じさせてくれる。
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目次
第一章 悪党の秋
第二章 風と虹
第三章 前夜
第四章 遠き曙光
第五章 雷鳴
第六章 陰翳
第七章 光の匂い
第八章 茫漠
第九章 人の死すべき時
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