2013年8月10日土曜日

「秒速5センチメートル」新海誠 2007 ★

相変わらずの物凄いセンチメンタルな世界観。見ていてクラクラしてくるその妄想感。

東京と地方。その距離を繋げるのは手紙とメール。前作までの様に、一見普通に見えるが、少しずつ何かがおかしいという設定。それはノスタルジーに満ちた良き過去を象徴する昭和感に、テクノロジーの進んだ未来感を並列することで生まれる既視感と違和感の融合。そんな手法をとることなく、ただただ現代を生きる自分達が共通に持つ「少し前の・・・」時代描写。

ISDNと書かれた公衆電話ボックスや、今の様に増えきっていない地下鉄の路線図など、直球で勝負する為の世界観の裏づけにかなり時間が費やされたのが目に取れる。

そして秒速5センチメートルだという桜の葉の落ちるスピード。本当かな・・・と思いながらも、なんとなく信じてしまいそうなその速度。そのスピードを頭の中で再現してみると、同じように見えてくる景色が舞う雪の風景。当然の様に使われる雪のシーン。

思春期を迎えた多感な男の子が夢に見るような純情な初恋の相手。こんな情熱的な初恋がしたかった。こんな純情で可愛い彼女が欲しかった。こんな美しい出会いがしたかった。そういう純粋な妄想がアニメという表現を借りて映像化されたようなもので、途切れ途切れに紡がれる台詞は「後悔」「僕の」「心」「痛いほどの」などというセンチメンタルな自分語り。

「ケケケケケケケ」という蜩の鳴き声は田舎の山奥の代名詞で、匿名的な電車の中のシーンは都会の孤独を表現する。山崎まさよしの「One more time, One more chance」と共に、「これでもか・・・」と細切れにカットインを繰り返される最後のシーンは、眩暈を覚えずにいられない。

こういう世界観を持ちながら、現在進行形で今を生きていく。こういうセンチメンタルな世界観に影響を受けて思春期を過ごす今の中学生達は、ある種大変な時代を生きているんだなとある種ぞっとする。

この世界観を心の中に持ちながら大人になるというのは、恐らく非常に傷つきやすく、また適応することが難しく日々を生きることになるのだろうと思う。「ナウシカ」や「ラピュタ」と共にあった思春期が希望や前を向く力を現していたのに対して、あくまでも後ろ向きな、過去への視線。そんな思春期を過ごしてきた大人が社会の中心を占めていく今後の世界。一体どんなフラジャイルな社会になっていくのだろうかと思わずにいられない。

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スタッフ
監督 新海誠
原作 新海誠
脚本 新海誠
絵コンテ 新海誠
演出 新海誠

キャスト
水橋研二 遠野貴樹
近藤好美 篠原明里(少女)
花村怜美 澄田花苗
尾上綾華 篠原明里(成人)
水野理紗 花苗の姉
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作品データ
製作年 2007年
製作国 日本
配給  コミックス・ウェーブ・フィルム
上映時間 63分
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