2012年9月23日日曜日

「天地明察 上・下」 冲方丁 ★★★



「暦は約束。明日も生きているという約束。明日もこの世はあるという約束。」
あまりにも当たり前すぎて、誰もが疑問に思うことすら忘れてしまう時間の流れ。今日が終われば、当たり前のように明日がやってくる。この世を営む超前提のルール。

「今日何日だっけ?」
何気ない会話だが、よくよく考えるとこの会話がなされるようになるまでには、恐ろしいほどの努力と常人からかけ離れた人類の英知が結晶が重なる膨大な時間が費やされたということを思わされる。

ホームボタンを押せば、デジタルの時間が当たり前のように毎秒を刻む。何もかもが生まれる前からあった当たり前の前提の様に感じるが、その前提を人類が理解できる形に翻訳する為に費やされた果てしない苦労を想像する。

「記憶力が本当に優れている者は、忘れる能力にも優れている。」
何かを生み出す為には、多くのものを吸収すると共に、自分なりの理解に沿いながら頭の中を整理して、新たなる体系を作っていくこと。忘れることは整理すること。

「一生が終わる前に今生きているこの心が死に絶える。」
退屈でない勝負を望んだ男と、その言葉を発することができた時代と努力。

「頼みなしたよ」 「頼まれました」
人生の長さと自分の役割、そして社会の為のなすべき目的をはっきり理解し、しっかりと次世代にバトンを渡すことのできるシニア層。

「なぜ凶作になると飢餓となって人は飢える?」
現象を見るのではなく、根源を探る問い。

「会津に飢人なし」
疑問する才能に溢れ、戦国から泰平へと世が移り変わる上での思想の変転を体現するように自らも役割を変えてった為政者たち。

「勝ってなお負けてなお残心の姿勢を残す」
一体どこまでが自分の果たすべき勝負なのか?そのフレームを見据えた振る舞いこそが一人の男の品位となって現れる。

第31回吉川英治文学新人賞受賞・第7回本屋大賞受賞が頷ける良作。次回の帰国で向かうべき先は会津以外に無いなと心に秘める。

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第31回吉川英治文学新人賞受賞
第7回本屋大賞受賞
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