2016年4月20日水曜日

Hotel Carlota_JSa Arquitectura 2015 ★★



イベントの主催者が用意してくれたホテル。まだ若い地元の建築家によるリノベーションのホテルだという。高密度の中心部に位置し、中央にプールが設置された中庭に面して外部廊下にて各部屋へとアクセスする。

エレベーターもかつて古くから使われていたであろう、シャッターで仕切るタイプのものでなかなかの雰囲気が味わえる。他のイベント関係者も宿泊していることもあり、イベントの打ち上げ終了後に各部屋からアクセスできる屋上のテラスにて遅くまで建築談義に花を咲かせながら、おおらかな建築のつくりに感心する。


















メキシコ・シティ(Mexico City) ★★


「Node Forum」というイベントに参加するために、7年ぶりにメキシコ・シティへ。AADRLで一年後輩にあたるtheverymanyを主宰するMarc Fornes、Snøhetta(スノヘッタ)のパートナーのMichelle Delk、Diller Scofidio + RenfroからCharles Renfroとともに、二日間に渡り「Progressive Architecture」というテーマでレクチャーなどで議論を交わす。

同年代の現地の建築家と交流を深め、かつバラガンやキャンデラの建築に加え、最近完成した建築なども、地元の建築家の案内で見れることに期待を込めながら、深夜の空港へと降り立つことにする。





2016年3月11日金曜日

「トイレのピエタ」 松永大司 2015 ★


松永大司

--------------------------------------------------------
スタッフ
監督 松永大司
脚本 松永大司
原作 松永大司『トイレのピエタ』
--------------------------------------------------------
キャスト
園田宏(余命宣告される元芸大生): 野田洋次郎
宮田真衣(高校生):杉咲花
横田亨(がん病院でのルームメイト):リリー・フランキー
尾崎さつき(宏の元彼女):市川紗椰
園田智恵(宏の母):大竹しのぶ
園田一男(宏の父):岩松了
橋本敬子(がんで入院する子供の母):宮沢りえ
橋本拓人(敬子の息子):澤田陸
武田晴子:MEGUMI
金沢:佐藤健
--------------------------------------------------------

建築という仕事柄、普段からアートに関する人々と接する機会をいただくことがある。美術館のキュレーターや、アートイベントのダイレクター、それにギャラリストやアーティスト。

改めて思うのが、普段日常で会っている「アートを生業としている人々」は、厳しい競争というフィルターをすでに潜り抜けてきている人であり、その作品やキュレーション能力において、世間からある一定の認知を受け、才能を認められ、絵を描いたり、作品を残すことに時間を割くことを可能とした人であるということ。

その中でもキャリアの段階において、それぞれにまた厳しい競争があり、その中で再度ふるいにかけられ、残った人がより上のステージにて、より大きな自由を得て信じる「アート」を世に送り出すことになる。

アーティストとして特別な才能と技術を身につけるため、芸術大学や独自に学ぶ。しかしその後どうにかして世に出るためには、誰かの目に留まり、評価してもらい、展覧会などの機会を得ていかなければいけない。その為に採用されているのが全国に散らばる様々な分野のアートを手がけるギャラリーシステム。才能があると目をつけたアーティストとギャラリーが何かしらの契約を結び、製作を援助し、方向性を語らいあい、そして展覧会を企画して世の目につくようにし、活躍の場を広げていくことで、アーティストの作品の価値を高めていく。

絵がうまかったり、独特の完成があり作品のクオリティを高めることができることと、それを誰かに知ってもらい、自らの活動を支える収入に変換すること。その二つはまったく異なる能力であり、小さなころからずっと絵を描いてきた人に、ある年齢からいきなり後者の仕事もしろと言っても、なかなかうまくできるものではない。営業や広報、そして人との付き合い。そんな対外的な才能とは違って、深く自らに向き合う能力があってこそできる作品もあるはずである。

しかし、現実は社交的で人付き合いがうまい、人脈が広い、可愛かったり、イケメンであったりと、絵の才能とは違う部分での要素を持っていることが、「誰かに自分の作品を知ってもらう」という点を突破するには大きな力を発揮する。

学生時代は同級生からも一目置かれ才能があるとされた芸大生。卒業後、定職に付くこともなく、アルバイトのビルの窓の清掃を行いながら、徐々に絵を描くことから遠ざかり、もやもやした気持ちを抱えながらも、クラブに通い刹那的に日々を過ごしていく主人公。

そんな主人公が突きつけられたのはいきなりの「がん」と「余命」宣告。そんな折にであった日常に苛立ちながらまっすぐに感情をむき出しにしてくる女子高生。徐々に弱る自らの身体と、「死」を受け入れながら生きていく周りの患者仲間の姿、そしてそんな自分の深刻さを物ともしない様に振舞う女子高生の真衣に振り回されながら、徐々に自分の人生を振り返り、自分の周りにいる人々と再度向き合うことになる宏。

この主人公を若者に人気だというロックバンド・RADWIMPSのボーカルの野田洋次郎が演じたことで、大きな話題を呼んで、かつ様々な映画賞にてもいろいろな賞を受賞しているようであるが、地方から絵を志して東京に出てきて、自ら求める「アート」と作品制作以外のことで評価されるアートの現状とうまく着地点を見つけられぬまま、漂うように今を生きる若者の演技はやはり真に迫ったものがある。

「余命」という自らの命の残り時間を直視したときに、人が何に時間を費やすのか。そこにその人が過ごしてきた一生の本質が見えてくる。そして主人公が選んだのは、出会った人々との記憶をとどめるように、アパートのトイレに「ピエタ」をモチーフとした女子高生の姿を描くこと。

学生のように若すぎず、社会人としての責任を持つほど老い過ぎず、モラトリアムの中で向き合う自らの残された時間。そこにはなかなか惹きつけられるものがあったが、今度アート関係の友達にぜひともどれくらいのリアリティがあるのかと感想を聞いてみたいものである。



2016年3月7日月曜日

「海街diary」 是枝裕和 2015 ★★★

--------------------------------------------------------
スタッフ
監督 是枝裕和
脚本 是枝裕和
原作 吉田秋生『海街diary』
--------------------------------------------------------
キャスト
香田幸(三姉妹の長女): 綾瀬はるか
香田佳乃(三姉妹の次女):長澤まさみ
香田千佳(三姉妹の三女):夏帆
浅野すず(三姉妹の異母妹):広瀬すず
佐々木都(三姉妹の母):大竹しのぶ
椎名和也(医師):堤真一
二ノ宮さち子(海猫食堂店主):風吹ジュン
福田仙一(山猫亭店主):リリー・フランキー
菊池史代(大船のおばちゃん):樹木希林
坂下美海(佳乃の上司):加瀬亮
井上泰之(湘南オクトパス監督):鈴木亮平
浜田三蔵(千佳の恋人):池田貴史
藤井朋章(店長、佳乃の恋人):坂口健太郎
尾崎風太(湘南オクトパス選手):前田旺志郎
--------------------------------------------------------
様々なところで映画賞を総なめしているらしいこの作品。大ヒットを記録しているということで、ヒットした漫画の実写化の流れも、これでより強固なものになるだろうと予想させる一作だろう。

舞台である「鎌倉」の落ち着いた街並みと豊かに残る自然の姿を前面にだし、全編を通して認識できる場所があちこちに登場するのも、映画を見えはロケ地を巡る観光客を期待する最近の邦画の流れであるのだろう。

主演の綾瀬はるかや、最近どの邦画を見ても出演しているように思われる、大竹しのぶ、リリー・フランキー、樹木希林や風吹ジュンなどの安定した脇役の演技もさることながら、自由奔放な次女の役を演じる長澤まさみの演技が非常に自然で好感が持てる。

海があって、里山があり、家族がともに住まう家があり、様々な舞台となる縁側がある。そんな日本の良き風景をふんだんに散りばめたこの映画と漫画が現代にヒットしているというのも、それが日本全国から失われつつある現代を投影しているからだろうかと想像を膨らませる。

今年も「住みたい街ランキング」の上位の常連としてランクインしたという鎌倉。古代の時代から人が集って住まったこの場所には、やはり生活の場として「心地よい」と感じる何かがあるのだろうと想像する。

この映画を見たことで、また紫陽花の咲く時期にこの街を訪れては、あちこちで「え、映画のシーンで使われていた場所だ」と発見するのもまた新たなこの街の楽しみとなっていくのだろう。















2016年3月6日日曜日

「0.5ミリ」 安藤桃子 2014 ★★★


安藤桃子
--------------------------------------------------------
スタッフ
監督 安藤桃子
脚本 安藤桃子
エグゼクティブプロデューサー 奥田瑛二
--------------------------------------------------------
キャスト
山岸サワ(介護士): 安藤サクラ
片岡昭三(寝たきりのおじいちゃん):織本順吉
片岡雪子(自殺する母):木内みどり
片岡マコト(引きこもりの息子):土屋希望
茂(自転車をパンクさせる):坂田利夫
ベンガル(茂の友人の詐欺師):斉藤末男 
康夫(カラオケ店に泊まろうとする老人):井上竜夫
カラオケ店員:東出昌大
真壁義男(元教師):津川雅彦
真壁静江(寝たきりの妻):草笛光子
浜田(真壁家のヘルパー):角替和枝
真壁久子(義男の姪):浅田美代子
佐々木健(マコト引き取り育てる父親):柄本明
--------------------------------------------------------
物語としては、安藤サクラ演じる介護士をしている主人公の山岸サワが、寝たきりのおじいちゃんを介護している派遣先で、その娘から、「冥土の土産におじいちゃんと一晩でいいから寝てくれないか?」と頼まれるところから始まる。

介護問題、漂流老人、老後の性欲、引きこもり、痴呆症などなど、様々な社会問題に対して、ネガティブな視線ではなく、明るくポジティブにかつ、等身大の視線で現代の日本の社会を描き出す意欲作。

サワが食事を取るシーンで「なんだか見たことある場所だな?」と調べてみると、やはり高知市のひらめ市場。全編に渡り高知に移住したと言われる監督である安藤桃子の高知愛がじっとり感じられる映画でもある。様々な地方に足を運び、こうして映画などでそのロケ地として選ばれるのもまた、あまたある様々な都市や風景から、魅力的だと誰かが選んだことによるものであるし、そういう風景を共有し、また認識できるようになって行くのは、旅を重ねる楽しみでもあると再認識する。

それと同時に安藤桃子が移住した理由も納得できるほど、高知、特に高知市は海があり、山があり、歴史的な街並みも残り、場所としての豊かさがにじみ出る、そんな場所である。「桐島、部活やめるってよ」でも同じように、この高知市の穏やかな時間の流れと空気感がとても清清しい画を作り出していたのを思い出す。

元々の派遣先の家で依頼された「おじいちゃんと寝てくれない?」という夜に、そのおじいちゃんが暴走することで発生した火災と、その娘が別れた夫との間の現在引きこもりで一言も言葉を発しない息子との生活に悲観しての自殺が重なったことで、主人公は勤め先を失い、家も仕事も金も無い状況で街を漂う。そんな日常から少し外れ、社会にとっての異端からの視線に入ってくるのは、周囲から見るとややおかしな行動をとっている高齢者の男性。

少々痴呆が始まり、糖尿病のインシュリンの投与をしながらカラオケ屋で宿泊できるものだと勘違いして店員の東出昌大ともめる老人。自転車置き場でタイヤをいたずらでパンクさせて、木々に話しかける老人。元教師でプライドは高いが、女子高生への隠しきれない性欲に駆られ万引きをしようとしてしまう老人。そんな老人の後ろめたい気持ちに付け込み、なんとか同居をさせてもらいながら生活をしていくうちに、どの老人とも心を通わせていきながと言われる監督である安藤桃子の高ら、どう人生の最後の時期を過ごすかという大きな社会問題を描いていく。

現代の日本が抱える高齢化社会と独居老人、老老介護の問題などを抱える高齢者たちの問題を解決する方法を描く訳ではないが、分かりやすい悲惨な状況にある人の物語を描くことで世間の注目を浴びようとする作品とは一線を画し、あくまでも明るく、そして親身に人として向き合う若い女性、プラスその女性が飛び切りの美人で世間も「ああ、なるほどね・・・」と別の意図を汲み取るようなキャスティングではなく、絶妙などこにでもいそうという容姿の女優を持ってくることで、あくまでも人間同士の係わり合いのドラマとしているのは、非常に好感が持てる。

なので、途中まで、「これは何か新しい社会のあり方を、路頭に迷う若者と、孤独に苦しむ高齢者とのあたらなるマッチングによって示そうとしているのかな?」と勘ぐってみてしまうが、3人目くらいなると、そのような重厚なメッセージは含まれておらず、ただただ淡々と老人や社会で自分の居場所探しに苦しむ若者の脇を漂いながら生きていく主人公の姿を描きながら、現代の日本を描いているのだと納得できる。

最後にカラオケ屋の店員としてチョイ役で登場する東出昌大は、「ひょっとして高知出身で地元愛で出演したのでは・・・」と思って調べるが、そんなことはなく埼玉出身のようである。

カラオケ店に泊まろうとする康夫


自転車をパンクさせる茂

元教師の真壁義男

真壁家のヘルパーの浜田

マコト引き取り育てる父親の佐々木健
引きこもりの息子の片岡マコト