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目次
まえがき
1 軽さ Lightness
2 速さ Quickness
3 正確さ Exactitude
4 視覚性 Visibility
5 多様性 Multiplicity
あとがき
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学校で一緒に授業を担当させてもらっている、古代ローマについて大変お詳しい先生が他の先生と「カルヴィーノのあの本、読みましたか?」と珍しく興奮気味に話しているのを聞いて、「これはさっそく手に入れないと」と注文した一冊。
イタロ・カルヴィーノ(Italo Calvino, 1923年 - 1985)はイタリアの小説家で、建築の世界でもよく引用される非常に想像力に満ちた空間を描く作家であり、建築の世界では学生の時期からも「読んでおかなければいけない作家」の一人にあげられる一人である。
そんな流れに漏れないように、自宅の本棚にも下記の本が並んでいる。
まっぷたつの子爵 1952年
木のぼり男爵 1957年
遠ざかる家 1957年
柔かい月 1967年
見えない都市 1972年
宿命の交わる城 1973年
冬の夜ひとりの旅人が 1979年
どれだけ読みきったか既に曖昧だが、とにかく早速手に入れたこの一冊。1980年代にアメリカのハーバード大学で「新たな千年紀のために」遺すべき文学的価値について準備された講義の記録。その途中で病で倒れたために全6回で準備されていた最後の講義は絶筆となっているが、その講義の記録が出版された一冊。
1 軽さ Lightness
建築の歴史は重力との格闘の歴史であり、まさに「重さ」にどう向かっていくか。そしてその対極にある「軽さ」は現代を表すキーワード。さて、その「軽さ」をカルヴィーノがどう語るのか?
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〈軽さー重み〉 重さからの離脱。物語の構造と言語から重さを取り除く。
我々の生きている時代の表現。世界は完全に石になって行く。ゆっくりとした石化。メドゥーサ。ペルセウス。ゴルゴーンの顔。青銅の盾に映る像。最も軽いもの。風と雲。間接的なヴィジョン。
メドゥーサの血から翼を持った馬。ペガサスが生まれる。石の重さから軽さ。ヘリコーン山。
オウディウス「変身物語」。海の怪獣。アンドロメダを解放。手を洗う。首を優しく置く。小枝。珊瑚に。現代詩人エウジェーニオ・モンターレ「小さな遺書」。ミラン・クンデラ「存在の耐えがたい軽さ」。生きることの避けがたい重苦しさ。強制。
ソフトウェアはハードウェアの重さを通してでしか軽さを発揮できない。
文体 エクリチュール。思慮深い軽さ。軽薄さ。
アルファベットの組み合わせ。物質の手に触れることのできない原子構造のモデルをみる。
非常に軽いもの。動いているもの。情報の担い手になっているもの。
軽さ。明確さと確定 「鳥のように軽くあらねばならぬ、羽根のようにではなく」
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2 速さ Quickness
技術の進歩がもたらしたのは時間と距離の縮小。かつてのあちら側をあっという間に日常の中へと引き込んでいく。物語の中に現れた移動手段、その時間、見えた風景。全ては「速さ」が投影されたもの。その「速さ」をどう見つめるのか。
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物語の秩序 出来事 継続する時間から自由に点のように休むことのない動きに一致するジグザグの図形を描きながら直線で結ばれているだけ
王様が病気 医者 「鬼の羽根 鬼はキリスト教徒を見ると食べる」 家来 「山の上に7つの洞窟。その一つに鬼住んでる」 イタリア民話集
表現の無駄のなさ 時間の相対性
シェヘラザーデ 物語の中で物語を語る 入れ子 物語に物語を連鎖 連続性と非連続性の操作
物語は馬 乗り物 交通手段 行き着くまでの道のり次第 速歩トロットだったり全速力ギャロップ 心理的スピード 適応の機敏さ 表現や思考の機敏さ
交通や情報におけるスピードの時代 イギリス文学もっとも美しいエッセイ トマス・ド・クィンシー「イギリスの郵便馬車」 深夜の旅 右側走行 物理的な速度と精神的な速度の関係
馬の精神的なスピードの比喩 ガリレオ・ガリレイ「贋金鑑定官」 論じることは走ることに似ている
「天文対話」 思考の速さ サグレードに擬人化 「このうえなく速い話し方」
情報化の時代 文学の機能 異なるもの同士の、まさにその差異を薄めたりすることのない、それどころか差異を強調し、差異に土台をおくコミュニケーションである
モータリゼーションの時代 測定可能な価値としてのスピードを押し付け、その記録が進歩の刻印
ロレンス・スターンの小説 脱線で成り立つ 時代の増殖 永遠の遁走
宿命的で避けがたい二点の間の最短距離が直線であるのなら、脱線がこれを引き伸ばしてくれる
ラテン語のモットー 「ゆっくりいそげ」 海豚と錨 正しい語の一つ一つが置き換えられない
必要で唯一で密度が高く簡素で記憶に残る表現
「レ・コスミコミケ」「柔らかい月」 空間と時代の抽象的な観念に明瞭な語りの効果を与える操作
短章的名人 ホルへ・ルイス・ボルヘス 語り手としての自らを発見 自分が書こうとする書物は実は、すでに書かれてしまった、他人によって書かれているのだという想定 「アル・ムターシを求めて」「可能態としての文学」「虚構の物語集」
グアテマラの作家アウグスト・モンテローソ「目を覚ますと、それでも恐竜(ディノサウルス)はそこにいた」
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3 正確さ Exactitude
加速度的に解像度を増す現代。見たものを如何に「正確に」再現するか。それは同時に如何に頭の中で創造したものを現実の世界に「正確に」再現することができるか?それは文学の世界も建築の世界も同じ課題に向かい合い、言葉以外のもので創造されたイメージをどうやって現実の物理世界に持ち込むのか?イメージと実物との間の「正確さ」とは?
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古代エジプト 霊魂の目方 量る重し 秤に載せる一本の羽毛 正確さの象徴 マアトMaat 秤の女神 長さの単位 統一規格煉瓦の33センチ
ジョルジョ・デ・サンティリャーナ 古代人の精密さの講演
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4 視覚性 Visibility
目の前のものが物体として認識できるのは、その物体が太陽の光を反射し、異なる特性を持った光が網膜へと届きそこで立体物として世界を認識する。陰があるから光を感じることができ、反射光によって辛うじて身の回りを認識することが出来る我々の視覚性。その視覚が文学の中で捉えたものは何だったのか?
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ダンテ
想像力二つ 視覚的なイメージから言語的表現へ
言葉から視覚的なイメージへ
イメージによって考える能力を失っている
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5 多様性 Multiplicity
同質のものから新たなる価値が生まれるよりも、圧倒的に多様性の中から新たなる価値が生まれる可能性は高い。新たなる価値とならずに埋もれていくものもあるかもしれないが、何かしらの化学反応を起こし、新しいものが生みだす多様性。
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「超=小説」 ジョルジュ・ペルック 「人生 使用法」 バルザック流円環的 パリの典型的な住宅建築の断面図 5回建ての住宅のアパルトマンの一室ごとに一章ずつ展開 カタログへの熱中 想像上の文献目録
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あとがき
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「くもの巣の小道」パルチザン戦争の血生臭 殺伐を少年の眼差し
「まっぷたつの子爵」善と悪に引き裂かれた人間 お伽噺に牧歌的物語
関節的な視像、鏡が捉えた映像 によって 世界の正体を明かす
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カルヴィーノがどれだけ意図的に自らの小説の世界を構築し、どの様な意図を持って物語を綴っていたかが垣間見れるそれらのキーワード。6回目に予定されていたものは「一貫性」 だという。
1000年という長いスパンの時間を見つめた時に始めた浮かび上がってくる価値がある。カルヴィーノの視線が捕らえたその理想の姿。「軽さ」を体現し、「速さ」を手なずけ、「正確さ」を獲得し、「視覚性」を理解し、「多様性」を生み出しながら、ブレることない「一貫性」を持ち続ける。恐らくこれは建築の世界を考えてもそんなに離れては無いのだろうと思われる。
「今」を追い求めるのも現代の生きるものとして確かに大切かもしれない。しかし1000年というスパンを飛ばした時にそれでも語り継がれるであろう価値を視界に捉え、それだけ息の長い時間を生きる作品を作ることを目標に「今」を生きること。それもまたカルヴィーノが目指したことであったのではと思わずにいられない一冊である。
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